コーヒーを通じて双方向につなぐ、春木屋 清水さんの想いとは

山梨県で大正時代から続く日本茶専門店で、約40年前からコーヒー事業を担う有限会社春木屋富士吉田店(以下、春木屋)。20年前からスペシャルティコーヒーを扱い始め、現在は富士山の湧き水で磨き洗いした豆を自社で焙煎して販売している。

焙煎を担当するのは専務の清水洋征さん。海ノ向こうコーヒーとは2020年から取り引きが始まり、定期的にお会いする中で懐が広く、愛情深い方という印象を受けた。2020年11月よりミャンマーの産地に小さな精製所を作る「マイクロミルプロジェクト」を立ち上げて、ロースターさんから協賛金を募った際に、いち早く手を上げたのが清水さんだった。現在もミャンマーの豆を店頭で販売しているだけでなく、軍事クーデターで情勢が安定しない現地に暮らす農家さんを遠い親戚のように気にかけ、メッセージを送っている。

野良猫の保護活動につなげるP-COFFEE

P-COFFEEは豆・粉400g、もしくはドリップバッグ10ケ×2袋で販売されている

そのあたたかな人柄は、春木屋の商品ラインアップにも表れている。近年では、「LOVE CATS BLEND P-COFFEE(以下、P-COFFEE)」がふるさと納税の返礼品として人気を集めるようになった。この商品の特徴は、売上の一部を野良猫の保護活動(地域猫活動)に寄付するというもの。全国でも稀なケースとして、新聞やラジオなどにも取り上げられている。

P-COFFEEは、清水さんの自宅に暮らす2匹の猫(ピーコとベビーちゃん)との縁によって生まれたという。以前、野良猫だったピーコは、子猫(ベビーちゃん)とともに春木屋の店舗に姿を現し、清水さんたちも名前を付けて可愛がるようになった。しかし、ある日のこと。いつものようにピーコとベビーちゃんが現れたが、いつもと違う様子で泣き続けている……どうしたのだろう。不思議に思った清水さんの脳裏によぎったのは、火をつけたままの焙煎機だった。急いで様子を見に行くと焙煎機からは煙が上がり、火事になる寸前の状態だったという。そのできごと以来、春木屋にとって2匹はより特別な存在となっていったが、ほどなくしてピーコが亡くなってしまった。死因は不明。しかし野良猫の寿命は飼い猫に比べて短く、ピーコの命もわずか数年で失われてしまった可能性が高い。清水さんたちは野良猫を取り巻く厳しい現状を知り、どうぶつ基金が行う野良猫の保護活動に協力するようになったという。

商品に添えられたストーリーがフックになる

現在、ベビーちゃんは清水さんの自宅で暮らしている

多くの人がP-COFFEEを通じて野良猫の保護活動を知り、コーヒーを購入するという行為を通じて消費者から参加者に変わる。そのフックになっているのが、商品説明に込められた清水さんの想いだ。言葉が持つ力。ストーリーテリングについては色んなところで論じられてきたが、ここで改めてその重要性について考えてみたい。春木屋では冒頭にあげたミャンマーだけでなく、マウンテンゴリラの保護につながるコンゴのコーヒーなども取り扱っている。その一つひとつのストーリーを、清水さんが自身の言葉で解釈して発信しているのだ。

商品をストーリーと一緒に紹介する点について、「商売だからいかに売りやすくするかということは大事だけど……」と前置きしながらも、清水さんは次のように話してくれた。「コーヒーが好きな人にとって珍しい産地のコーヒーは非常に魅力的ですが、あまり知らない人にはなじみが薄いと思います。そこに+αのフックとして、ストーリーを添えることが大事。例えば、このコーヒーが育てられたエリアにはマウンテンゴリラが生息していて、コーヒーがその保護活動に役立てられることを伝えると一気に興味を持ってもらえるようになります」。

もの・こと・人を双方向につなぐ

ストーリーに込められた言葉が人々の心を捉え、コーヒーの味や香りとつながっていく。ロースターの個性とは焙煎技術だけでなく、商品が持つストーリーを自身の解釈をもとに言語化する過程に宿るのではないだろうか。そのために、清水さんは新しい知識を吸収することに余念がない。海ノ向こうコーヒーが主催するセミナーにも参加して、積極的に質問する姿が見られる。そんな彼が海ノ向こうコーヒーに対してどんな印象を抱いているのか尋ねてみた。

ミャンマーのマイクロミルプロジェクトで作られた豆の麻袋には、春木屋のロゴマークが刻まれている

「双方向性を大事にしているように感じますね。マイクロミルプロジェクトなど、『一緒にやりませんか?』と呼びかけるスタンスは珍しい。事業規模に関係なく、日本でコーヒーに関わる人を仲間に加えながら、産地と双方向の関係を作り上げていこうというスタンスは他社と異なると思います」。

身に余る言葉に恐縮しつつも、“双方向性” というキーワードが印象に残った。その言葉は清水さんのお店づくりや想いにもつながっているからだ。P-COFFEEも猫と購入者を双方向につなぐツールであり、マイクロミルプロジェクトも産地と双方向の関係を築くプロジェクトだ。それらに積極的に取り組む姿勢には、コーヒーを通じて、もの・こと・人をつなぎ、消費に終わらない循環を生み出したいという想いがあるのではないだろうか。2023年には店舗をリニューアルして、新しいコーヒーの事業にもチャレンジするという。そこでも清水さんの想いはどのように広がっていくのだろうか。ぜひ足を運んでみたいものだ。

有限会社春木屋富士吉田店
清水洋征さん
Webサイト:https://harukiya-coffee.ocnk.net/