【Podcast ep.104】ルワンダ渡航記と生産現場、これからの海ノ向こうコーヒー

音声で聞きたい方はこちらのPodcastから

今回のスピーカー

海ノ向こうコーヒー
生豆営業担当
藤原

滋賀県出身。通称まりおさん。 海ノ向こうコーヒー最古参のスタッフで、「おかん」ぽいと言われる。 東京在住ながら、ポッドキャストでは誰よりも流暢な関西弁を喋る。 コーヒーのソムリエとも言える、Qグレーダー保持者。

海ノ向こうコーヒー
事業責任者
山本

兵庫県出身。これまで、フィリピンの大学にてアグロフォレストリー、コーヒー栽培について研究を行う。その後、世界各国のコーヒー豆の生産地への訪問や技術指導を通して、産地と日本をつなぐ活動を行っている。昆虫が好き。

「僕がやりたいのはプロレス」

藤原 はい、本日もポッドキャスト始めます。よろしくお願いします。今日も何の打ち合わせもなく始まりました。笑

山本 お願いします。今日はこんなこと話そう、みたいな段取りって、そもそもあるんですか。

藤原 ほとんどないですね。

山本 そうやんな。予定調和を嫌う海ノ向こうコーヒースタッフ、まりおさんだからこそ、というのはあるかもしれない。

藤原 そうですね。ただそれは、お話が上手な方が相手であればオープンな感じでいいと思っているんですけど、「今日は何を話そう」となるタイプの方には、事前に下調べをして、こういう話をするといいかな、というのは用意するようにしています。

山本 なかなかいないよね、自分のことをちゃんと喋れる人って。僕もここ2、3ヶ月、真面目にマネジメントをやろうと思って海ノ向こうコーヒーのことをやっているんだけど、いろんな人と話して思ったのは、自分のことをちゃんと言葉にできる人は意外と少ない、ということでした。

藤原 確かに。自分自身の体験を、どう話せば相手や視聴者に響くかというところまで考えを巡らせるのは、結構特殊なスキルだと思います。

山本 スキルというより、反復練習な気がするけどね。誰でもできるようになるものだと思う。僕自身、人前で喋るのはもともとすごく苦手で、大学のプレゼンでも何も喋れないタイプだったから。いつの間にかできるようになる、というのは、場数をどれだけ踏んだかという話な気がする。

藤原 確かにそうですね。あとは「引き出し」をちゃんと持っておくことも大事かもしれません。バラバラの体験がただ流れていくだけじゃなくて、頭の中で整理できるようにしておく、というか。

山本 それは本当にそんな気がするな。海ノ向こうコーヒーのみんなは真面目だなと、あらためて思う。物事を真正面から受け取って、その上でちゃんと答えようとするキャッチボールをするというか。サッカーで言うとパスをきっちり回すような、スポーツのルールがちゃんと決まっている感じがする。僕自身はルールを決めずにやるタイプだから、スタッフには「僕がやりたいのはプロレスなんだ」とよく言っています。ボクシングみたいに勝敗を決めたいわけじゃなくて、ガードで固めながら、いい感じの一発を狙うようなプロレスがいいのに、と。


ルワンダ渡航記ー出会いと気づき

山本 なんでそんなことを思ったかというと、実は1週間前くらいまでルワンダにいて。現地の生産者さんに会うのも楽しかったんだけど、ルワンダには日本人も結構いて、その中に僕と同じ大学出身の人が2人いたんです。年齢は20歳くらい離れている人と、2歳しか離れていない人。年上の方は新卒でいきなりルワンダに来て、林業関連のプロジェクトでヨーロッパに輸出する仕事をしているらしいんですが、いろいろ話す中で、若いからこそ悩みも多くて、最近ちゃんと言葉にしようとnoteを書いているという話をしていました。

ただ、自分の悩みや考えがちゃんと表現できているか分からない、とも言っていて。いや、その年齢ならそんなものだろうと僕は思うんです。真面目だからこそ、明確に書こう書こうとしてしまうんだけど、漫画の線みたいに、シュッと勢いで描くような線もあっていい。輪郭さえ作れればいいのに、というのを最近ちょうど考えていたので、なおさらそう思いました。

藤原 なるほど。

山本 うちのスタッフにも通じるところだと思う。真面目だから。

藤原 でも、それ以外のアプローチが分からないだけなんじゃないかなと思います。今まで歩んできたやり方があるから、いきなり「プロレスをやってみろ」と言われても、構えが分からない。やりたいけれど、やり方が分からなくなってしまうんだと思います。

山本 そうやね。だから最近は「プロレスができる人」がもう少しいてくれたらな、と思いながらスタッフを見ています。人数はかなり増えたので。

藤原 なるほど、大丈夫かな(笑)。私も久しぶりに京都に行くと、初めましての人が多いです。

山本 今日だけでも3人初めまして、みたいな感じだった。でもそれはすごくいいことだと思う。今回、面接をした中には、ハワイの農園で働いていたという人も来てくれました。

藤原 バックグラウンドは全然把握できていないです。皆さん、どんな方が入社しているのか。

山本 これがやっぱり面白くて。マネジメント期間をちょっと経て、1人1人と「人生曲線」の話からするようにしているんです。うまく描ける人、描けない人、色々いるんだけど、それぞれがどんな人生を歩んできたかが見えると、やっぱりワクワクする。「だから今のあなたがあるんですね」というのが見えてくる。コーヒーひと筋でやってこられた方もいれば、国際協力の文脈でやってこられた方、研究者気質の方、とにかく数を当たろうという感じでいろんなことをやってきた方もいて、本当にさまざまです。最近はそれを踏まえて、みんなが楽しく働けるにはどうしたらいいかを考える毎日です。

藤原 このマネジメントモード期間は、まだ続いていくということでいいんでしょうか。

山本 続いていますね。とはいえ、月1で海外に行くような生活が8月ぐらいまで続くんですよ。


今後の渡航スケジュールと連携先

藤原 どこに行かれるんですか。今、6月ですけど。

山本 今月はアメリカ。来月はパプアニューギニア。その次はおそらくエチオピア、タンザニアです。

藤原 未来づくり推進室でやっているグローバルサウス関連のプロジェクトとして行かれるんですね。

山本 そう。エチオピアはNGOと繋がって、ワークショップをやろうという話があって。まだ何のワークショップをやるかは決まっていないんだけど。エチオピアは収穫期でもないので、そのタイミングで行くのもどうかなと思っていて、それならタンザニアも合わせて行こうかという流れです。

藤原 タンザニアも同じNGOと繋がっているんですか。

山本 そうそう、繋がっています。ルワンダで一緒にプロジェクトをやろうと話しているのが「サステナブルグローワーズ」というNGOで、ここはルワンダだけでなく、隣のコンゴ民主共和国タンザニアにもオフィスを持っています。彼らはアフリカでの活動をもっと広げていきたいし、中南米にも広げていきたいと考えている。女性を中心にコーヒーの生産、マーケティング、発信をどう進めていくかを考えているNGOなんです。そのタンザニア拠点に、一度行ってみたいと思っています。

藤原 タンザニアとコンゴはなんとなくイメージできるんですけど、なぜそこにオフィスがあるのか、ちょっと分からなくて。

山本 ルワンダはアフリカの地図で見るとすごく小さくて、四国よりちょっと大きいくらいなんです。西側はコンゴ民主共和国と国境を接していて、コーヒーの流通の中でも接点がよくある地域なんですよ。

藤原 なるほど。サステナブルグローワーズさんはコーヒーに特化しているわけではない、ということですか。

山本 いや、コーヒーに特化しています。今のところコーヒーしかやっていないくらい。

藤原 そうなんですね。じゃあ、今後もパプアニューギニアだけでなく、機会があればそちらの豆も出てくるかもしれない、と。

山本 そうそう。今回ルワンダに行った理由の一つが、生産者向けのワークショップの依頼だったんです。内容はコーヒー収穫後の加工――ナチュラルなどの精製方法について、もっと変わったやり方を教えてほしい、というもの。実はコンゴ側の生産者も参加予定だったんですが、エボラの流行があって、結局参加できなくなってしまって。

藤原 ニュースで見ました。

山本 そうそう。それで結局ルワンダの人たちだけに伝えることになったんですが、関係性としてはすごくいい感じにやれていて、コーヒーのことをどんどんやっていきたいと言ってくれています。

藤原 楽しみですね。今回のワークショップの第2弾、第3弾もあり得るということですね。

山本 どうなるかな。俺自身も久しぶりだったんだけど、画用紙を用意して絵を描きながらいろいろ伝える、というやり方をやってみたら、すごく楽しかったです。

藤原 (エボラが落ち着いた)次の機会でワークショップも行い、またコンゴ側のコーヒーを扱うことも出てくるかもしれませんね。


ルワンダのコーヒーとJICAとのつながり

山本 ルワンダはコーヒー生産に国を挙げて力を入れているんです。日本人のロースターさんでも「ルワンダに行ってきたので扱っています」とか「ルワンダだけ扱っています」という方をよく見かけて、なんでだろうと不思議だったんですが、今回その理由がよく分かりました。

国からの要請でJICAのようなところに「うちの国はコーヒーに力を入れるので協力してほしい」という依頼があって、コーヒーの品質向上や生産量アップ、変わった品種の育成、マーケットとの接続といったプロジェクトが立ち上がる。そこにJICAの青年海外協力隊としてコーヒー隊員が派遣されて、その地域の生産者組合やコーヒーを盛り上げる活動をする。うまくいくこともいかないこともあるけれど、現地に愛着が出てくると、彼らのコーヒーを扱いたいと思うようになる。でも大きな企業に売り込む知識まではないので、自分で商売を始めよう、となる人がたくさんいて、それがルワンダコーヒーの発信につながっている。よくできたシステムだなと思いました。

藤原 日本にはJICAという仕組みがありますが、他の国にもルワンダと同じようなパートナーシップを持っている国ってあるんですか。

山本 一番大きいのはアメリカやヨーロッパですね。バイヤーとして規模が大きい。普通のプロモーションで関係を作っていくパターンもあるし、ルワンダには大きめの輸出会社もたくさん入ってきていて、そういうところが現地の会社と組んで動き始めています。彼らは世界中に売り先を持っているから、基本的にすごく売れるんです。

藤原 そう考えると、私たちが関わる意味って何なんだろうと思ってしまいました。

山本 それは結構あります。日本人がやることで愛着が出る、というのはあるんだけど、それ以外だと、品質が高いと言われる地域のものしか扱われない、という現実もあります。例えば「ベスト・オブ・ルワンダ」というCOEのようなコンテストで高得点を取った地域のものは売れるけれど、それ以外の地域や、カッピングだけで判断されないような場所は取りこぼされてしまう。有名なのは西側の山岳地帯、コンゴやブルンジとの国境沿い、あるいは北のウガンダ国境沿いのあたり。でもルワンダにはもっとたくさんの産地があって、売りたいと思っても「もう買うところは決まっているので」と断られてしまう生産者組合やウォッシングステーションがたくさんある。

例えば東側のタンザニア国境沿いにもコーヒーは作られているんですが、そちらはあまり見向きもされない。「コーヒーは標高がすべて」みたいな極端な見方をする人も多いんですが、実際には標高1,600mから2,200mくらいあって、決して低いわけではないんです。それでも「東にはコーヒーがない」「あまり美味しくない」といった変な評判が広まってしまう。実際にはいろんな生産者がいるし、そういうところもちゃんと扱っていきたいと思っています。


コーヒー以外の魅力―伝統芸術と歴史

山本 「ルワンダ」と聞いて、何を思い浮かべますか。

藤原 ジェノサイド、でしょうか。

山本 そう、そこなんです。ジェノサイドという悲しい歴史があった中で、今はこんなに成長しました、「アフリカの奇跡」と言われています、というのが、ルワンダの語られ方の定番になっている。でも、コーヒーの語り手も含めて、みんなそう語りがちなのが、少しもったいないなと思っていて。ルワンダにはほかにもたくさんの魅力があるんです。

山本 今回すごく良かったのは、ルワンダの伝統的なアート「イミゴンゴ」を研究して日本で販売している日本人の方に会えたことです。8年間ルワンダに住んでいる女性で、今回一番会いたかった人でした。

藤原 これ、見たことあります。今、(「イミゴンゴ」と検索して)画像を見ていますが、幾何学模様のアートなんですね。

山本 そう。人物や風景を描くのではなくて、牛の糞を使って、キャンバスにあたる素材の上に手で少しずつ盛り付けていくんです。盛り付けた部分と盛り付けていない部分でできる凹凸のうち、凹んだところに白、赤、黄色、オレンジ、黒などの色をつけていく。それで幾何学模様ができるんですが、もともとは家の壁に描いていたものを、キャンバスに落とし込んだものなんです。

ルワンダでは「民族」という言葉自体に、紛争の記憶からトラウマがあって、あまり使われない。彼らのことは「種族(クラン)」という言い方をすることが多いんですが、このイミゴンゴを作っているクランは、もともとウガンダのビクトリア湖のほとりに住んでいて、牛を追いながら遊牧的に暮らしていたそうです。それが徐々に南下して、今のルワンダ南東部に定住した、という歴史があって、そこでこのアートが生まれ、結婚式などのギフトとして贈られるようになったと聞きました。

こういう文化的な話が、コーヒーの文脈で語られることはあまりない。もったいないなと思います。ちなみに研究者の方によると、同じような模様の遺跡が中東のカタールやイラン、イラクにもあるらしくて、もしかしたら繋がっているんじゃないか、という話も出ているそうです。

藤原 まだ解明されていないんですね、面白い。

山本 コーヒーという目線だけで語ると、どうしても「ジェノサイドがあって、そこから復興した国」という歌い文句になりがちなんですが、その歴史をもっと丁寧に見ていくと、今も国のトラウマとして生活の端々に残っていることが分かる。「大変だったけど復興しました、女性の社会進出もすごいです」という語り方は、少し安直だったんじゃないか、と今回改めて感じました。

藤原 それはそうですよね。日本も、被爆した国がその後産業として発展した、という語られ方しかされない時期があって、「いや、それだけじゃないんだよ」というのを漫画やアニメが伝えてきた、みたいなところがありますもんね。いろんな側面がありますよね、という。

山本 まさにそうだと思う。戦争で焼け野原になった国が復興できた、あんな小さな島国が、みたいな語られ方をされてしまうのは、知られていないからだけだと思う。ちなみに「ルワンダ 髪型」で調べてみてください。むちゃくちゃ濃いので。

藤原 ちょっと待ってください、調べます。……アトムみたいな髪型が出てきますね。皆さんも調べてみてください。笑

山本 そうそう、結構アトムみたいな髪型になっているんです。ジェノサイドが起きる前、ベルギーなどが占領する前は王国で、王様や王族、あるいは文化の担い手たちは、自分のステータスやポジションの変化を髪型で表していたんです。例えば村の女性は、結婚が決まると剃り込みを入れたり、戦士はネットのような髪型にしたり、高さを出したりしていたそうです。

藤原 なるほど、面白いですね。手先が器用じゃないと難しそうですし、メンテナンスも大変そうな髪型です。「アマスンズ」というのがこの髪型の名前らしいです。

山本 こういう人たちがいる、という時点で、コーヒーを真面目にやることも大事なんだけど、産地の見方みたいなものは、もっと色々あっていいと思う。今回改めてそう感じたし、こういう研究をしている人に会えたのは本当に良かったです。

藤原 お侍さんのちょんまげも、近い歴史なのかもしれないですね。今考えると不思議な髪型ですし。

山本 そうそう、そういうことです。昔は眉毛の形も独特だったし。

藤原 「まろ眉」と言われるような眉毛ですね。

山本 そういう見方をしてもいいんじゃないかと思う。もちろん、すべてを民族的な視点と絡めるべきではないし、そう見てはいけないケースもあるけれど、そういう「見方」自体はとても大事だと思っていて。実は今、そういう視点をまとめた本を作ろうという話が進んでいるんですよ。

藤原 おお、それってもしかして……何周年のタイミングでの企画ですか。

山本 そうそう。タイトルはまだ言わない方がいい本になりそうなので伏せておくんですが、ちょうど今年、海ノ向こうコーヒーは10周年で。10周年だからいろいろやろう、という中の一つとして、産地にまつわる本を書こうという話が出ています。その中で「見方」的な視点を盛り込みたいと思っています。


他地域への視点―グアテマラの歴史とコーヒー

藤原 そう言えば。先日、グアテマラにも行かれていましたよね。そちらも民族の話があったと思うんですが、布とコーヒーのような視点も出てきたりしたんですか。

山本 グアテマラの場合は、もう一歩踏み込むと、民族的な部分だけで語りすぎると表面的になってしまうところがあります。もともと先住民の人たちはトウモロコシやコットンを育てていたんですが、植民地化されてコットンが流行り、次にコーヒーが流行った。先住民の人たちは、そのプランテーションでほぼ強制的に働かされていた、という歴史がある。だから「先住民とコーヒー」を単純に結びつけてしまうと、少し一方的な見方になってしまうんです。

ただ、そういう歴史があったからこそ(コーヒーがグアテマラ国内へ)広がっていった側面もあって。先住民の人たちの賢いところは、働きながらポケットに種をしのばせて自分の故郷に持ち帰り、そこで栽培を始めたことです。もともと定住していた山の民たちが、プランテーションが広がる中で栽培技術を身につけて、それを持ち帰って自分たちの土地で栽培を広げていった。アティトランや、ウエウエテナンゴの周辺などに広がっていったのは、そういう経緯があります。

藤原 知らなかったです、面白い。そういう経緯があったから、スペシャルティコーヒーの生産地として知られる有名産地が生まれた、ということなんですね。

山本 そうなんです。3月にグアテマラに行った時、たまたま知り合った生産者に「農園に来て」と誘われて訪ねたんです。そこはもともとドイツ系の移民たちが作った、ものすごく大きなウォッシングステーションで、周辺の山岳地帯にコーヒーが植えられていたんですが、地元の先住民の人たちはピッカー(収穫作業者)として関わっていただけだったんです。つまり、自分たちのコーヒーではなかった。低賃金で雇われているような状況だったので、次第にみんな辞めていってしまって、そのウォッシングステーションは放置された状態になっていました。

それが2年ほど前から、「放置されているし誰も使っていないなら、自分たちの土地なんだから自分たちで買い上げて、自分たちのコーヒーとして売ろう」という動きが始まっているんです。一度植民地支配されて、コーヒー栽培を強制されていた土地から、今度は自分たちのコーヒーを作るために、白人たちが残した設備を引き継いで使う。これは本当に素晴らしいことだと思うし、僕はこういうコーヒーもぜひ扱いたいと思いました。

藤原 それはまだ、今回の取り扱いには入っていないんですよね。

山本 そう、今回入れようと思ってカッピングもしたんだけど、まだ品質的にもう一歩というところだったので、その旨を細かく伝えました。感想がまだ言語化できていない部分もあったので、そこも含めてちゃんとやろう、と。それができるだけで、来年こそは、という話をしています。

藤原 一歩ずつなんですね。本人たちは大変だと思いますけど、俯瞰して見ると、ちゃんと歩んでいるんだなというのが分かって、いいなと思います。

山本 世代が変わると、考え方も、世界との繋がり方も変わってきて、新しい価値観が生まれてくる。そこにコーヒーが掛け合わさるとこうなるんだ、というのを感じることが、産地に行くということの本質な気がしています。ただカッピングして買い付けをするだけじゃない、というか。

藤原 本当にそうですね。話をしてみないと、その人たちがどういう考えを持っているかは分からないですし、その部分は絶対になくしてはいけないなと思います。


渡航と物理的な距離がもたらす気づき

藤原 今回、見送りになったコーヒー以外に、他に取り扱うものはありますか?

山本 3つほど生産者組合のものを紹介しようと思っています。今まで一度も日本に来たことがないようなロットばかりなので、カッピングしてもらう価値はあると思いますし、1袋だけでも買ってみる、というのも全然ありだと思います。

藤原 Co-NECT Projectとしての先行予約会を現在行っております。6月29日までご注文を受け付けておりますので、ぜひ覗いてみてください。明日からは全国でカッピング会も行っていきますし、焙煎豆のサンプルの抽選も明日まで受付中です。

山本 そうでしたね。今回あらためて思ったのは、物理的に日本から離れることの大切さです。日本にいて忙しくしていると、視野が忙殺されてしまう。真面目であればあるほど、見えなくなるものがあるんだろうなと思っていて。だから自分にはこういう機会が必要だな、と思う一方で、そこが今の課題でもあって。できるだけ現場に行った方がいいとは思いつつ、どう折り合いをつけるかを考えています。マネジメントできる人を入れた方がいいのか、それとも僕の代わりに産地で動いてくれる人を入れた方がいいのか。

産地で仕事をしたい、あるいはしていました、という人って、あまりいないものなんですかね。

藤原 いるとは思いますよ。採用ページで未来づくり推進室のような役割を打ち出すと、応募自体はたくさん来ます。ただ、それが私たちの求めているものと一致するかというと、また別の話で。ひろさんが「お会いしたことがない」とおっしゃるのは、たぶんそこの話だと思います。

山本 コーヒー栽培のことをちゃんと分かっていて、なおかつ国際協力の文脈もよく分かっている、という人はやっぱり少ないと思う。国際協力に興味があります、という人は多いんだけど、フェアトレードとか平和とか、抽象的なことを抽象的なまま理解して、抽象的なまま仕事をしようとする人が結構多い印象があって。「具体的に何がしたいんですか」と聞くと、「とりあえず国際機関に行きたいと思っています」となってしまう。実際、国連のような国際機関にいる人がみんな優秀かというと、そうでもないんです。

藤原 どこを見て仕事をしているか、ということですよね。

山本 プロジェクトをマネジメントすることが仕事だと思っているなら、そういう場所に行けばいいけれど、現場感やライブ感の中で物事が進んでいくところにやりがいを感じているなら、実力をつけるしかないと思う。コーヒー栽培の技術があるとか、農業全般の知識があるとか、マーケティングにすごく詳しいとか。

僕自身も最近、流通について学ぼうと本を読んでいるんですが、これがすごく勉強になっていて。アパレル業界が、世界的にどう変化してきたかを書いている本で、バイヤーの存在が業界を変えてきた、という話が出てきます。コーヒーにも通じる部分があるんじゃないかと思っています。

藤原 その本、また個人的に教えてください。アパレル業界の歴史とコーヒー業界って、確かに通じるところがありそうですね。

山本 コットンが作られるところがあって、それがアメリカが大量に洋服を作るようになるにつれて、香港などに発注するようになって。アメリカ国内で製造するとコストが高いから、外に作らせよう、となって、東アジア、特に韓国や中国、香港がその受け皿になっていった。そこにある工場が、原料を周辺国やアフリカから調達するようになって、バリューチェーンができあがっていく

工場で働いていた人たちが技術を学んで、自分たちでも作れると気づいて独立していったり、逆に「うちで代わりに作ってあげるよ」というOEM的な会社が出てきたり、「自分のブランドを立ち上げよう」というOBM(オリジナル・ブランド・メーカー)が生まれたり。そういう戦後からの流れが書かれていて、とても勉強になっています。

藤原 バリューチェーンの中での役割が変化していく、ということですね。海ノ向こうコーヒーでもよくバリューチェーンの話をしますけど、産地によって全然違う、というのがひろさんの見方ですか。

山本 産地によって全然違いますね。プレイヤーが誰かという観点で言うと、大きく「プロデューサードリブン」――生産者が主導して物事や流通が動いていくものと、「バイヤードリブン」――買い手側が主導するもの、の2つに分けられます。コーヒーで言うと、エクアドルは生産者ドリブン、コロンビアはバイヤードリブンに近い例です。

コロンビアの場合、国の政策として「コーヒーを第一に掲げる」と決めて、大きな生産者組合を作り、平均買い取り価格を定め、大手のドライミルを構えて、そこにコーヒー豆が集約される流通構造を作っています。そこにエージェントや生産者組合ができていく。一方でエクアドルは、国がそこまでコントロールしようとしないので、生産者自身が「自分たちで輸出しよう」と考え始める。昔は売り方に悩んでいたけれど、今はSNSで直接ロースターと繋がれるし、DHLで割引価格で輸出もできる時代になった。そういう要因によって変化しているものがすごくある、と感じています。

藤原 国の政策によって守られている、とも言えるし、逆に囲われている、決められてしまっている、とも言えますよね。そういう仕組みも、まだ存在しているということですね。

山本 完全に国がコントロールしている例で言うと、エチオピアがまさにそう。国がコントロールしようという意志がすごく強い国です。

藤原 なんとなくそういうものだろうな、と思う国もあれば、そうじゃないケースもあって。私たちのようにコーヒーに関わる立場だからこそ気づくことで、エンドユーザーの方はそこまで気にしていないと思うんですよね。そういう側面もある、というのを伝えるのも大事かもしれません。


コーヒーの見せ方・伝え方

山本 コーヒーの見られ方、語られ方は、味や香りだけになりがちで、あるいは職人技のようなロースター歴何十年の人が語る「コーヒー本来の味」みたいな売り方に偏りがちです。それはそれで一つの売り方としてもちろんいいんですが、コーヒーが手元に届くまでの過程は、国によって全然違うし、その違いの中でその国ならではの重要なポイントがある。それをいかにナラティブとして伝えられるか、説明することを面倒がらない、というのがすごく大事だと思っています。

例えば野菜でもよく話すんですが、大根に空洞ができることがあります。これは品質が悪いわけではなくて、季節の変わり目に起きやすい自然な現象なんですが、スーパーではその理由を1人1人の店員がお客さんに説明しきれないから、扱わないようにしてしまう。うちのお客さんには、「これは季節の変わり目のサインなんですよ、春が来たんだなと思ってもらえると嬉しいです、とはいえ交換もできますよ」とちゃんと伝えるようにしています。何も説明せずに「交換します」とだけ言うのと、理由を伝えた上で交換すると言うのとでは、受け取られ方が全く違うんです。

コーヒー豆も同じで、変形した豆だけでコーヒーを飲んだことがある人はほとんどいないと思います。品質に本質的な影響がないのに、見た目が良くないというだけで弾かれてしまう豆もある。脱穀の工程では毎回微妙に機械を調整していて、ブロークン(欠け豆)が多いと感じたら幅や圧力を緩める、という調整を常にしているので、ブロークンが入ること自体はごく自然なことなんです。そのあとで選別している、という前提がある。

こういうことを、僕らも、海ノ向こうコーヒーのスタッフも、焙煎屋さんも、ちゃんと理解していくことが大事だと思っています。異物が入ることも含めて。

藤原 ちょっとしたコラムで伝えてもいいかもしれないですね。「今日のブロークンが入る理由、知ってる?」というような。ちゃんと説明すると大変ですけど、目に触れるところに置いておいて、「そういう理由なら仕方ないか」と頭の片隅に置いてもらえるような発信は、やっていきたいです。

山本 そういうことをやっていきたいし、広めていくことで、何年か後にはコーヒーの見られ方が少し変わっているんじゃないかと思っています。

藤原 完璧じゃないんですよね、いろんなものは。それを言い訳にするつもりはないけれど、ちゃんと説明することはやめたくないなと思います。

山本 素人目には、野菜は形が綺麗な方が美味しそうに見えてしまう。それは美味しい・美味しくないの本当の見方が分からないからで、「実はこう見るんですよ」と伝えるだけで変わる。マグロも、尻尾の断面を見ると脂の乗り方が分かるらしくて、市場に行くと尻尾がすべて切られて断面が並んでいます。そういうことをちょっと知るだけで、味わい方や見方が変わってくるのに、今はあまりにも「抽出」と「産地」の話に偏りすぎているな、とは思います。

藤原 そういう切り口があること自体は理解しているんですけど、それだけじゃないよ、というところを知っていただきたいですね。今日は「ポイント・オブ・ビュー」がテーマの回でしたね。


新しい取り組み――器具と焙煎サンプル豆

藤原 ヒロさん、最近ご自身の話ってありますか。

山本 最近の僕はもう、損益計算書やP/L、B/S、キャッシュフローのことばかり考えています。

藤原 ちゃんとお金の勉強もされているんですね。マネジメントに加えて、お金の感覚も大事だと。

山本 海ノ向こうコーヒーという事業をやっていく上で、他の会社さんの経営状態にも目が向くようになりました。公開してくれている情報を見て、「これくらいの経常利益でいいんだ」とか、「自分たちは意外と優秀かもしれない」とか、色々考えるようになっています。

藤原 業界によっても違うと思いますけど、私たちはどこに属するんでしょうか。

山本 原料を扱う輸入商社に近いと思います。あとは問屋業に近い部分もある。

藤原 なるほど、先輩がたくさんいる業界ですね。

山本 コーヒー、特に原料は現金で殴り合う商売なので、この現金をどう用意するか、というのが常についてまわります。新しい産地でいい生産者に出会っても、多くの場合お金に余裕がないので、前払いを求められることがある。そういう時に対応できるマイクロファイナンス、あるいはソーシャル色の強い低金利のファイナンスのような仕組みがあれば、生産者にも喜んでもらえる。そういう事業ができないかな、と考えたりしています。まだ構想段階ですが。

藤原 また別の世界が広がりそうですね。

山本 そう、こういう新しい事業のタネがないかな、といつも考えています。その中で、聞いてくださっている方やお客さんへの朗報として言うと、器具を扱っていこうと思っています。大きなメーカーさんの力を借りて、ペーパーフィルターなどを取り扱っていく予定です。そうすると、生豆の注文の中に「ペーパー2箱、ロシ101も入れておいて」というような形で一緒に注文できるようになる。これはたぶん7月……いや、今月の半ばくらいから始める予定です。

藤原 準備は着々と進んでいる、ということですね。

山本 もう1つが、少し先の話になりますが、焙煎豆のサンプル販売です。ロースターさんは忙しくて、サンプルロースターを自前で回す余裕がないことも多いので、カッピング用に焙煎した豆を用意しておく。カッピングしてどう扱うか判断できるようになりますし、さらに、カビ豆だけ集めたサンプルや、発酵豆だけ集めたサンプルなど、トレーニング教材としても使えるものを用意していきたいと考えています。

藤原 スタッフのトレーニング用にも良さそうですね。カッピング会もまたやっていく予定ですし。

山本 どこまでいっても、僕らはサプライチェーンの真ん中にいる存在なので、生産者にとって心地いいか、ロースターさんにとって心地いいか、というところから求められることを考えないといけない。海ノ向こうコーヒーは思想が強い会社で、それは個性でもあるんだけど、それを押し付けてしまうとまた違う話になる。あくまでこの流通の中の一部として、まずはちゃんと商売として心地よくやっていただく、というところから、器具や焙煎サンプル豆の展開を考えていきたいと思っています。


10周年に向けて

藤原 器具については、マシンの方も考えていたりするんですか。

山本 それはもう余裕でできます。すでに使われているコーヒーメーカーもありますし、水出し用にはカリタのマシンがよく使われているので、そういうニーズにも応えられます。グラインダーであれば、ハイカットやナイスカットのような業務用グレードのものもあれば、dittingのような、よりハイエンドなものまで用意できます。

藤原 私も個人用に買おうかな、家のナイスカットが壊れてしまって。分解してもどうにもならなくて。

山本 それは山藤さんに相談してください。笑

藤原 部署が変わったんですよね、山藤さん。

山本 そうそう。もともと出荷部門にいたんですが、最近「モノガタリ共創室」という新しい部署に異動になって。もう1人加わって今は2人体制です。未来づくり推進室が海外に向けた発信を担う部署だとすると、モノガタリ共創室は、社内、特に日本国内でのサービス向上を担っていく部署です。山藤さんにはすごく向いているポジションだと思っています。

藤原 今回の焙煎サンプル豆や器具の展開にも、彼女を中心にいろいろ動いてくれていると思うので、次にどんなサービスが出てくるか楽しみです。

山本 いろいろ仕掛けていっているので、楽しみにしていてください。(10周年に向けて)もちろんセールも考えていますので、その時はぜひたくさん買っていただければと思います。

藤原 10周年に向けての企画を進めてますものね。10周年は具体的にいつでしたっけ。

山本 9月3日か6日あたりだったと思います。うちの社長の小野邦彦と、この部署を立ち上げた安田大志という2人が、英語もろくに話せないままラオスに行って、今のパートナーであるサフロンコーヒーのトッドさんに会いに行ったのが始まりでした。何を話していたのかよく分からないけれど、いい人だった、というところから「ちょっとやってみようか、輸入」と始まった部署なんです。

藤原 それが「メコンオーガニックプロジェクト」という名前になって。

山本 そうそう、メコンオーガニックプロジェクトとして2年間くらいやって、その後「海ノ向こうコーヒー」という名前になりました。

藤原 ヒロさんが関わり始めたのも、10年は経っていないけれど、9年前くらいでしたよね。

山本 9年前か……時間の流れを感じますね。

藤原 また9年後に同じことを言っているかもしれないですね。笑 9年後は、何をされていると思いますか

山本 9年後は大学で教えているか、研究をしているか、そのあたりかな。今、そういう「研究してみたい」という気持ちも含めて、流通のことを勉強しているところなので。

藤原 コーヒーの研究をするなら、どの分野に興味がありますか。

山本 サプライチェーンのところですね。コーヒー業界もどんどん変化していく中で、スペシャルティコーヒーの変化がよく語られますが、それに伴って流通自体も変化している、というところは、もう少し語られてもいいと思っていて。そこを今、勉強しています。

藤原 国際協力の話の、さらに先にある、マーケティングの領域ですね。

山本 そうですね。比較文化論のようなものにはずっと興味があって。産地×文化×コーヒーで見ると、国によって在り方が全然違うので。この2、3年、そういう視点でずっと書きためているものがあって、Slackに誰宛でもなく書いているんですが、あれは自分にとって大事な情報源になっている気がしています。

藤原 ヒロさんが考えていることや、渡航先での気づきをまとめたものですね。私もいつも覗かせてもらっています。それがいつか社外にもお届けできる形になったら、私も嬉しいです。


クロージング

山本 今回、ルワンダに行った話をするつもりだったんですが、結果的にルワンダの話だけにはならなかったですね。(ルワンダ国内)東西南北でいろんな話をしながら、生産者にお伝えできたこともあれば、逆に学ばせてもらったこともあって。産地に行くと色々な情報が入ってくるし、物事が前に進む。これが僕らのやり方なのかもしれない、とあらためて思いました。

藤原 そのスタイルで進めていただくのが、私たちも楽しみです。パプアニューギニア編、そしてエチオピア・タンザニア編も、ぜひまた聞かせてください。

山本 よろしくお願いします。

一同 ありがとうございました。


このPodcastの関連商品