【雲南省 かもめの天空農園 渡航日記③】
大企業のコーヒー栽培指定地、ワ族の農園、そして曾さんの苦悩

前回の記事(雲南 かもめの天空農園 渡航日記②)はこちら

イウの町をあとにして、向かったのは孟連(モンリエン)県ミャンマーとの国境近くの町です。
どこか東南アジアを思わせる雰囲気の街並みが続きます。

曾さんは7年ほど前からモンリエンでコーヒー栽培に取り組んできました。曾さんにとっては何度も何度も足を運んできた町です。

曾さん:「明日は少し早起きできますか?行きたい場所があります。」

前日、ホテルに着いたのは深夜2時。眠い目をこすりながら早起きして、曾さんに連れて行ってもらったのは、曾さんお気に入りのフォー屋さんでした。
近所の人たちも続々と朝ごはんにフォーを食べにやってきます。やさしくてほっとする味が移動続きの旅で疲れた体にしみわたりました。

腹ごしらえも済ませて向かったのは、曾さんが取り組んできた農園のある場所でした。(海ノ向こうコーヒーの扱っているコーヒーの採れる農園とはまた別の農園です。)

曾さんはこの農園で主にコモディティコーヒーの生産を行っています。ここは某一大コーヒーメーカーの指定地としてコーヒーの木を植え始めた農園です。

標高は1200メートル弱、樹齢30年近くになる木がたくさん植わっています。樹間も畝間も1メートルに満たない密植が特徴的で、量をつくるための農園設計なのだと見てわかります。

指定地で生産されたコーヒーは基本的にその企業によって買い取られます。ただし、買い付け契約量以上のものが生産できたときは、農家さんはその余剰分を別のところに売っても良いのだそう。

曾さんは自身の農園も経営しながら、すでにある農園とパートナーシップを結び、栽培方法の改善などに取り組んできました。

この農園もパートナーシップを結んでいる農園のひとつで、倭(ワ)族の農家さんたちが管理しています。

曾さん:「仕事はきっちりやってくれるんだけど、ワ族にはワ族の道理があるみたいで、こちらの道理を聞いてもらえないことがよくあるんだ。感情をすぐに表に出す人も多くて、喧嘩になってしまうんだ。喧嘩したかと思うと、次の日にはそれがなかったみたいにすっかり元通り。何だったんだろうって振り回されることも多くて疲れてしまうよ」

一大メーカーの指定地という環境下により品質がよくても悪くても価格があまり変わらない構造きちんと取り組んでくれる農家さんに対価を与えると公平性の観点からほかの農家さんの妬みを買ってしまう社会文化など、良いものをつくりたいという曾さんの思いとは裏腹に、この地特有の課題があるようでした。

曾さん:「この辺は土地が弱っているんだ。」

土壌の劣化もこの地の抱える課題のひとつです。


中国において、化成肥料は有機肥料の5分の1の価格で買うことができます。化成肥料に含まれる栄養素の割合構成は一定です。

コーヒーの木はその時その時で必要な栄養素が変わりますにも関わらず、化成肥料を与え続けることで、結果的に土壌中の栄養素に偏りが生じてしまいます。

今でこそ、中国のコーヒー生産において実質禁止とされている除草剤ですが、昔はこの農園でも除草剤を使用していたそうです。

こうした積み重ねが、この農園の土壌の劣化へつながっているようでした。

曾さん:「ここは今まで栽培拠点にしていた場所だったけれど、これからはイウのほうに拠点を移して行く予定なんだ。

栽培はイウで、ここはどっちかというと土壌改良の取り組みを行っていこうと思ってる場所なんだ。」

大企業によるコーヒー開発の現状と、そこで生産に取り組む人々との関係性づくり……
曾さんの苦悩が垣間見えた農園訪問でした。