中米の生豆を仕入れる際、グアテマラやホンジュラスが定番ではないでしょうか。
今回は、それらの国々に引けを取らない魅力をもつ、ニカラグアにスポットを当て、コーヒー栽培の歴史、カップクオリティを決定づける自然環境、品種別の味わいについて、連載でお届けします。
今後の仕入れや、新しいラインナップを検討される際のヒントとして、少しでもお役に立てれば幸いです。
ニカラグアとコーヒーの歴史

ニカラグアにコーヒーが伝わったのは1790年代のことです。スペイン人カトリック宣教師がコスタリカやコロンビア経由でアラビカ種の苗木を持ち込んだことが始まりで、当初は修道院や農園の片隅で、珍しい植物として静かに育てられていました。
栽培が本格化したのは1850年代に入ってから、1849年にカリフォルニアで金が発見されると、一攫千金を夢見た人々がアメリカ中から押し寄せました。当時、東海岸からカリフォルニアへの最短ルートはニカラグアのサン・フアン川を経由する水路で、この航路を行き交う旅人たちがコーヒーを求めたことで、需要が一気に膨らみます。

政府も中央高地での栽培を後押しするようになり、5,000本以上のコーヒーの木を持つ農園には一本あたり5セントの奨励金が出る制度が設けられました。長年、ニカラグアの輸出産物は牛肉や皮革などの畜産物が主でしたが、1870年代にはマタガルパにまで産地が広がり、コーヒーがニカラグア最大の輸出作物へと成長します。1900年には年間輸出量が15万袋に達し、その後も生産は拡大を続け、20世紀後半には200万袋を超えるまでに成長しました。その後、綿や砂糖が新たな輸出品として広まっていきましたが、コーヒーは最も多くの農地を占めつづけました。
ところが、1998年10月、観測史上最強クラスのハリケーン「ミッチ」が中米を直撃し、コーヒー産業に大きな試練が訪れます。ニカラグアでは50万〜80万人が家を失い、国全体の被害額は10億ドルにのぼりました。農園への打撃も深刻で、生産量の20〜30%が失われ、損失は65万袋以上。輸出量は半減し、回復には数年かかると言われました。さらに翌年からの国際コーヒー価格の暴落が追い打ちをかけます。2001年には常用労働者20万人、季節労働者40万人がコーヒー関連の仕事を失い、農村では失業・農場閉鎖・食料不足が連鎖していきました。

転機となったのが、2002年にニカラグアで初めて開催されたカップ・オブ・エクセレンス(COE)です。品評会を通じて、その高い品質が世界に知られるようになり、 ニカラグア産コーヒーはニューヨーク市場の通常価格の20倍を超える値がつくまでになりました。自分たちのコーヒーに名前がつき、世界で評価される。その経験が、長年「量をつくる」ことを優先してきた農家の意識を「丁寧につくる」という考え方へ少しずつ変えていきました。現在、コーヒー輸出額は年間5億ドルを超え(輸出量は約220万袋)、33万人以上の雇用を支えながら、今もこの国の人々の暮らしを支えつづけています。
中米コーヒー生産量比較
| 中米内順位 | 生産量 | 国名 |
| 1位 | 約38万トン | ホンジュラス |
| 2位 | 約23万トン | グアテマラ |
| 3位 | 約14万トン | ニカラグア |
| 4位 | 約8万トン | コスタリカ |
| 5位 | 約3万トン | エルサルバドル |
出典:FAO(国連食糧農業機関)FAOSTAT, Crops and livestock products, 2023
ニカラグアコーヒーのおいしさを育む自然環境

中米に位置するニカラグア共和国は、北にホンジュラス、南にコスタリカと国境を接し、東はカリブ海、西は太平洋に面しています。国土面積は約13万km²と中米7ヵ国の中で最も広く、地形は平坦な太平洋沿岸低地、内陸の山岳高原地帯、そして広大なカリブ海側の熱帯低地という三層構造からなります。
国土の西部に巨大なニカラグア湖が目に入ります。その北西にはマナグア湖が広がり、首都マナグアはその南岸に位置しています。ここを起点に北へ視線を移していくと、なだらかな低地がしだいに起伏を増し、やがて深い緑に覆われた山岳地帯へと変わっていきます。コーヒーが育つのは、この中央から北部にかけて広がる山岳高原地帯です。

ニカラグアには約20の火山があり、そのほとんどが太平洋側に沿って連なっています。なかでもサンクリストバルやモモトンボ、マサヤなどは現在も活動を続ける活火山で、噴火のたびに火山灰が周囲の大地に降り積もります。この火山灰にはリン・カリウムなどといったミネラルが豊富に含まれており、長い年月をかけて積み重なることで、コーヒー栽培に理想的な栄養素をたっぷりと含んだ豊かな土壌が生まれます。
マナグアからさらに北へ進むと、雲霧林に深く覆われたコルディジェラ・イサベリア山脈がそびえ、その最高峰であるモゴトン峰(2,107m)はホンジュラスとの国境近くに位置しています。山脈は南へ向かうにつれヒノテガやヌエバ・セゴビアのコーヒー産地へと続き、山のふもとには「ブリサス・デル・モゴトン(モゴトンの風)」という名前の農園があります。また中部ニカラグアには、コルディジェラ・ダリエンセ山脈がそびえ、その山懐にはマタガルパのコーヒー農園が広がっています。
中米第3位の生産国でありながら、品質への評価はトップクラス。その味わいの秘密は、この土地ならではの自然環境にあります。

ニカラグアのコーヒーは、産地それぞれの個性はありつつも、甘いコクとやわらかい酸味のバランスの良さが特徴です。その旨みの土台となるのが火山性土壌。そして、やわらかな酸味を生み出すのが高い標高です。この2つの自然環境に、雨季と乾季のサイクルが加わることで、ニカラグアならではの奥行きのある味わいがつくり出されています。
① 火山性土壌:
ニカラグア西部の太平洋沿いには、モモトンボ・サンクリストバル・テリカといった活火山が帯状に連なります。2024年6月にサンクリストバルでも火山灰の噴出が確認され、2025年1月にはテリカが連続噴火するなど、現在も噴火活動を続けており、定期的に火山灰アラートが発令されています。このミネラルを豊富に含んだ火山灰が長い年月をかけて積み重なることで、カリウムやリンなどの栄養素をたっぷりと含んだ豊かな土壌が形成されていきました。カリウムは果実の糖度を高め、リンは根の発育を助けます。こうした栄養をコーヒーの木が地中からしっかりと吸収することで、甘いコクと酸味のバランスが生まれます。

②標高:
豊かな土壌と並んで、ニカラグアコーヒーの個性をつくっているもうひとつの大きな要素が「高い標高」です。 実際にコーヒーの味わいによる等級は、栽培される標高によっても大きく変わります。等級の基準は国によってさまざまで、豆の大きさや欠点豆の割合で分類する国もありますが、ニカラグアが標高を基準にするのは、それだけ高地の環境が、コーヒーの品質に直結しているからです。ニカラグアではSHG(Strictly High Grown)が標高1,200m以上、HG(High Grown)が900〜1,200m、CS(Central Standard)が500〜900mと3段階に分類されています。
ニカラグアのコーヒーは標高1,100〜1,600mで育てられており、ヌエバ・セゴビアでは1,800mに達する農園もあります。中米の主要産地のなかでも、上位に位置する高さです。
中米主要産地の標高比較
| 国 | 主な栽培標高 |
| グアテマラ | 1,500〜2,000m |
| ニカラグア | 1,100〜1,800m |
| ホンジュラス | 1,000〜1,700m |
| コスタリカ | 800〜1,700m |
高地では、昼間に光合成でつくられた糖分が、夜間の低温によって消費されずにチェリーの中へと蓄積されていきます。さらに気圧が低く光合成そのものもゆっくり進むため、チェリーが時間をかけて熟し、糖だけでなくクエン酸やリンゴ酸といったやわらかな酸味の成分や、香りを決める成分も十分に発達します。低地で育ったコーヒーに比べて風味が複雑になるのは、こうした高地ならではの環境があるからです。
ただし、等級だけで品質のすべてが決まるわけではありません。農園名・品種・精製方法・焙煎日の4つをあわせて確認するのが、よいコーヒーを選ぶうえで確実な方法です。海ノ向こうコーヒーが扱うニカラグア豆は、すべてSHG規格のものを選んでいます。
③ 雨季と乾季のサイクル:
また、アラビカ種のコーヒーには年間1,200〜1,800mmの降水量が理想とされていますが、ニカラグアの産地はおおむねその中央値にあたる年間1,400〜1,600mmの雨が降ります。ニカラグアでは通常、11〜4月が乾季となっており、雨季に十分な水分を蓄えたコーヒーの木は、乾季に向けてゆっくりとチェリーを熟させ、11月頃に収穫期を迎えます。乾季の安定した晴天は、収穫後の乾燥・精製にも好条件で、乾燥パティオに広げられたチェリーは、太陽の下でじっくりと仕上げられます。こうした環境や季節のサイクルが、チェリーの品質を安定させています。
このようにニカラグアコーヒーの味わいの背景には、さまざまな自然環境の要素が密接に関わっていることがわかりました。次回は、ニカラグアを代表する三大コーヒー産地について紹介します。

ニカラグアのコーヒーは、こちら。
毎日飲みたくなるようなバランスの良さが魅力です。
