海ノ向こうコーヒーの山藤です!
2月末、まだ日本では厳しい寒さが残る季節に、乾季のタイへ渡航してきました。

コーヒーの国内需要が伸び続けているタイ。街中にはスペシャルティのコーヒーショップが並び、その勢いやトレンドは農家さんのもとにも波及し、彼らのコーヒーづくりの工夫につながっています。
1960年代、アヘンの栽培を止め、コーヒーに置き換えるロイヤルプロジェクトをきっかけに本格的な栽培を開始したこの国。アフリカや中南米の国々に比べて栽培の歴史は浅いものの、新しい産地だからこそ、他国のさまざまな技術や精製方法を積極的に取り入れ、より良いコーヒーを求めて取り組む意欲的な生産者さんが多くいます。

タイでは、主に北部でアラビカ種、南部ではロブスタ種の栽培が行われています。今回訪れたのは北部の一大産地、チェンライとチェンマイ。この国のスペシャルティコーヒー生産をけん引するエリアです。このあたりは、標高1,000〜1,600mの山岳地帯。タイのお土産に「Doi Chaang Coffee」という有名なブランドがありますが、この名前もチェンライにある山の名前に由来しています。

今回は、この地域で7軒の生産者さんを訪問してきました。毎年ご紹介している生産者さんたちの様子、彼らの「今」をお届けします。
❶「いつもチャレンジしつづけたい」3代目農園主のナーウィンさん

最初に訪れたのは、タイ北部チェンライ県のドイチャン村。ここで自身の農園とウェットミルをかまえ、生産をおこなっている、ナーウィンさんです。彼は、おじいさんの代から続く農園を25歳で引き継ぎ、5年前にこのウェットミルを建てたそう。お兄さんがカフェを運営している影響もあり、自分たちで精製までできたらという思いから、加工場を建設しました。

毎年、ナーウィンさんのロットではケニアスタイルウォッシュの商品をご紹介していますが、彼らが今チャレンジしているのは、インフューズドなどの特殊精製。水洗の前、水洗後の乾燥の手前、乾燥を始めた直後、などさまざまなタイミングでフレーバーを添加して、よりおいしく仕上げる方法を試行錯誤しています。チャレンジの傍ら、基本のウォッシュの品質にもぬかりありません。その場でカッピングさせてもらったサンプルは、明るい酸質でいい仕上がり。
「品質を維持することと、毎年新しいことにチャレンジすること、それからマーケットを拡大していくことを頑張っていきたい」ナーウィンさんはそう話してくれました。

新しいチャレンジの成果が、日本へ届く日が待ち遠しいです。
❷夫婦で取り組む品質管理 シリンヤコーヒー

2軒目はナーウィンさんのミルのほど近く、農園のそばでカフェの運営も手がける、シリンヤコーヒーのスーポンさんとオイルさんご夫婦。カフェの経営から始まって、農園の運営にたどり着いた農家さんです。

山々に囲まれた見晴らしの良い高台に、彼らの乾燥場とミルがあります。そこから望む山は、ゾウの頭を意味する「フワチャン」と呼ばれているそう。うーん、言われてみればそう見えなくもないかな。ともあれ、とても気持ちのいい眺めと空気で、乾燥台の上のコーヒーたちもつややかに見えます。

周辺の75軒もの農家さんからチェリーを集めており、ウォッシュに加え、ナチュラルやレッドハニーもつくるシリンヤコーヒー。販売先は国内が多いこともあり、味わいのトレンドも捉えながら、さまざまな精製に取り組まれています。
「生き残り、つくり続けていくこと。気候変動にも対応しながら続けていかないといけない。」オイルさんは、そう力強く話してくれました。
❸メーラーク一家と共に、急斜面のコーヒー畑にアタック
日も傾きつつある夕刻ごろ、たどり着いたのはメーラークさんたちの農園。メーラークさん「たち」というのは、彼らは一家で農園を運営しているから。今回の訪問では、5人兄弟のうち4人のお兄さんたちに会ってきました。コーヒーの木を見るために農地を案内してもらったのですが、これがかなりの急斜面。土がふかふか柔らかく、踏ん張りがきかない中、ほぼ這いつくばるような体勢で上り下り。いったいどうやって苗木を並べて植え、収穫しているのだろうと脱帽しました。


メーラーク一家も、周辺農家さんからチェリーを買い集めて精製をおこなっているのですが、聞くと今年はチェリーの価格が高く、思うように買い付けができなかったとのこと。実は最近タイでは、農家さんからチェリーを高く買いさらっていく闇業者のような手口が横行しており、メーラークさんたちのウェットミルに届く前に買われてしまったり、チェリーの買い付け価格が引きあがったりしているそうです。メーラークさんに限らず、他の農家さんのところでも同じような状況を耳にしました。

国内外での需要の拡大によって、従来のサプライチェーンが崩れかねない状態になっている。この現状のなかで、私たちがどういった立ち回りができるのかは、考えるべき大きな課題だと感じました。
❹「子ども達の未来のために」有機栽培に取り組むインスリットさん

この日の最後は、ドイパンコン村へ。このエリアの村長をつとめる、インスリットさんが迎えてくれました。農園とカフェ、そして私たちが宿泊したホテルまで運営しているインスリットさん。夕飯後にカフェでカッピング会をした時には、家族や大勢の仲間も集まってくれ、彼の求心力やコミュニティのつながりが垣間見えました。

翌朝は少し早起きをして農園へ。彼の農園の特徴のひとつは、有機栽培に取り組んでいること。タイの有機認証を得た農地で、周辺ではトマトやキャベツ、梅の木も育てられています。最近では、梅の木でおこなっていた接ぎ木の技術を、ゲイシャ種の栽培に活かそうとしているそう。

タイでは、有機栽培でつくられたコーヒーに対して特別な付加価値がつくわけではないので、コストや収量の側面からみるとメリットは大きくないというのが実状。
「家族からは反対されることもありますが、認証を得た農地を守り、なにより子どもたちの未来につながる農業のために、有機栽培はちゃんと続けていきたい」と話してくれました。
❺地元のロースターが集まる人気生産者の村、クンラオ


チェンマイとチェンライを結ぶ国道をひた走り、少し山の方に入ったところにあるクンラオ村。車があれば比較的アクセスしやすい場所のため、国内の多くのロースターさんが買付けに訪れるエリアです。訪ねたのは、ジャルーンさん、スリさんのお家と農園。彼らもまた、多くのタイのロースターさんに販売している生産者さんです。

家の軒先にはパルパーがあり、ときどき周辺の農家さんがバイクにチェリーをのせて運んできてくれます。近くに乾燥場ももっており、加工方法も多岐にわたります。ウォッシュやナチュラルはもちろん、ハニーはブラック、レッド、イエロー、と乾燥時間を細かくコントロールして、さまざまな味わいをつくることに挑戦しています。

ジャルーンさんの農園は、もともとはお茶を栽培していた農地を、コーヒー栽培に転換したそう。お茶のときは木を切っていた場所も、コーヒーのために森を復活させて、今では立派に背の高い木が茂っています。ゲイシャなど、特に手をかけて育てているコーヒーの木にはザルがかけてあり、それはジャルーンさんが自分で収穫するよ、という目印。チェリーの糖度を測って20度を超えるものがあると大喜び。そんなコーヒーへの愛情いっぱいな様子に、思わず笑みがこぼれてしまいます。

今年はどんなコーヒーが届くのか、ますます楽しみです。
❻発酵の探求をしてやまないヌイさんアオイさん

この日もまた、日暮れとともに最後の農園へ。たどり着いたのは、タイ北部チェンマイに位置するジェイスックスーンコーヒーファームのヌイさん、アオイさんご夫婦のところ。

こちらもウェットミルをもっており、周辺農家さんからもチェリーを買い付けてパーチメントまでの加工をおこなっています。この日行っていたのは、ラクティックファーメンテーション。ヨーグルトとチェリーを混ぜて、嫌気発酵させるためのタンクに入れる様子を見せてもらいました。他にも、パルピングの際に出たミューシレージを活用した発酵方法なども実験していました。


加工場にはたくさんのチェリー、水洗後のパーチメントが所狭しと並び、乾燥場所が足りなくなりそうなほど、さまざまなトライをつづけています。まだまだやりたいことは尽きないようです。
❼自然へのリスペクトと共に農業に向き合う、レイジーマンの哲学

昨日よりも少し南西に移動し、チェンマイ県ノンタオ村へ。日本で言ういろは坂のようなぐねぐねの山道を2時間ほどバスで爆走し、レイジーマンコーヒーへ向かいました。ここは、海ノ向こうコーヒーが初期からお付き合いのある農園。スエさんがあたたかな笑顔で迎えてくれました。

このあたりには、山岳少数民族のカレン族が暮らしています。自給自足に近いかたちで、お米や野菜、家畜を育てて食糧を得て、多くを欲さず、おだやかにゆっくりと生活をしています。自然からの恵みを「待つ」ことを大切にするという彼らの信条を、
スエさんは笑いながら「僕たちはレイジー(怠け者)なんだ」と説明してくれました。

そんな文化の中で育まれるコーヒーは、豊かな森の中で、剪定などはされず自然のままに実をつけています。自分の背丈を優に超えるコーヒーの木の枝をしならせながら、チェリーを収穫。サルの声や鳥の声が聞こえてきて、こんな動物がいるんだよ、と説明してくれるスエさん。自然へのリスペクトと共に農業に向き合う。ここにくる前は、レイジーマンってただのんびりな性格ってことだと思っていましたが、ゆっくりと自然が呼吸をするのと同じペースで生きていく、ということなんだな、と気づかされました。
最後に
ひと口に「タイのコーヒー」といえど、つくり手や、彼らの想いはさまざまでした。それらをコーヒーを通して伝え、より多くのお店に美味しいタイコーヒーを届けられるように、今年のニュークロップも輸入の準備中です。
既存のアイテムも、これからの新商品も、楽しんでいただけると嬉しいです!

タイのコーヒーは、こちらから。
タイコーヒーで、ちょっぴり肩の力を抜きませんか。
