
今回のスピーカー

海ノ向こうコーヒー
生豆営業担当
藤原
滋賀県出身。通称まりおさん。 海ノ向こうコーヒー最古参のスタッフで、「おかん」ぽいと言われる。 東京在住ながら、ポッドキャストでは誰よりも流暢な関西弁を喋る。 コーヒーのソムリエとも言える、Qグレーダー保持者。

海ノ向こうコーヒー
未来づくり推進室
田才
新潟県出身。これまでに国連職員やNGO職員としてザンビア、パラグアイ、スーダン、ラオスなどに駐在。現在は東京を拠点に世界中のコーヒー産地を飛び回る。ニュージーランドにバリスタ留学をした経験もあり、コーヒーが大好き。

株式会社バイオーム
龍野さん
奈良県出身。専門は送粉生態学(花と花粉を運ぶ生きものとの関係を研究する分野)。バイオームでは生態系の健全性評価の計画・調査・レポーティングや、生物データベースの管理などをおこなっている。コーヒー好き。ガラパゴス諸島でカッピングデビュー!コーヒーソムリエへの道は険しいことを知る。
藤原: はい、ポッドキャスト始まりました。本日はゲストの方をお迎えしています。「海ノ向こうコーヒー」の藤原と田才の2名。プラス、ゲストの方をお迎えします。お名前お願いいたします。
龍野: はい。バイオームの龍野です。
藤原: という3名でお届けします。よろしくお願いします。
藤原: お願いします。龍野さんと私は先ほどお会いしたばかりなんですけれども、もはや社内の方かなっていうぐらいの打ち解け方で。
龍野: すいません、偉そうに。そうは見えないんですけどね、こうやってね。(椅子にのけぞって座りながら)
田才: いや、もう一緒にエクアドル行った仲なんでね。
藤原:ざっくばらんにお話しいただければと思います。今日は何をテーマに話すんでしたっけ?
田才: はい、そうですね。今「海ノ向こうコーヒー」が、JICA(国際協力機構)さんの案件で「JICA Quest(ジャイカ・クエスト)」という調査事業をやらせてもらっています。昨年の11月に、エクアドルのガラパゴス諸島とロハという本土の方に、私とバイオームさんと一緒に行かせていただきました。コーヒーの「アグロフォレストリー(森林農法)」がどれだけ生物多様性の向上に貢献するか、というのを現地で調査してきました。
バイオームさんは生物多様性に関する事業をこれまでやられていて、まずは龍野さんから簡単に事業説明をしてもらうのがいいかなと思っています。お互いに京都に本社があるスタートアップ2社で力を合わせて、現地で何かできないかを見てきたというところなので、ぜひお願いします。
龍野: 僕、あんまり自分の会社の紹介とか慣れてないんでシドロモドロになりますが……。うちの会社は「バイオーム」という会社で、社名と同じ「Biome」という生き物コレクションアプリを展開してきました。
これは、市民の皆さんに外で見つけた生物をスマートフォンで写真に撮ってアップロードしてもらい、みんなで「自分たちの住んでいるところにどんな生き物がいるか」という情報を集めるアプリです。集まったデータを使って、その場所の生物多様性だとか、「ここに重要な種がいるよ」「ここに特定外来種の困った種が侵入しているよ」といったことを可視化して、環境保全に役立てていくというコンセプトです。
また、それとは別に「自然共生サイト」や「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」などの取得に向けたお手伝いもやっていて、これまでは主に国内で多くやってきました。
プロの調査員さんと一緒に、植物や昆虫、鳥などのデータを集めて、そのエリアで何が重要かを調べる仕事も最近よくやっています。海外でも同じように、森林回復事業などを行っているところで「どういう生き物がいるのか」「どうやったらより良い環境が回復できるのか」を調査・提案しています。
その流れの中で、今回は田才さんたちとアグロフォレストリーの生態系評価に関わらせてもらった形です。
藤原: 最初はどうやって出会ったんですか?
田才: 僕がコンタクトした感じですね。元々バイオームさんのことは知っていて、面白い会社だな、連携できそうだなと勝手に思っていたんですよ。その時にこの「JICA Quest」が「2組織以上で組んで応募してください」という内容だったので、この機会に一緒にできないかなと。
京都のオフィスに突撃したわけじゃないですけど(笑)、企画を持って行って「一緒にやりましょう」とお話ししました。やるなら「ガラパゴス」ってすごく生物多様性の象徴的な場所ですし、僕らとしてもガラパゴス諸島のコーヒーはすごく気になるところだったので、そこを舞台に始まっていった感じです。
藤原: 龍野さんとしては、突然提案を受けてどうでした?「面白そう!」なのか「一度社内で考えよう」なのか。
龍野: 僕の手元に話が来た時には、弊社の担当がコンセプトをまとめていて、「実地で調査するなら龍野、お前どうだ?」と言われて「行きます!」と即答した感じです。
会社全体としても、生物多様性の評価をする、しかもそれがポジティブな取り組みを評価するということであれば、ぜひやらせてもらいたいという感じだったと思います。
藤原: 龍野さん的にはどうですか?「ガラパゴスだ!」ってテンション上がる感じでした?
龍野: そうですね。ガラパゴスにはすごい興味ありますね。やっぱり「海洋島」ということで、一度も大陸と繋がったことがない島なんです。そのため、生物が大陸のものとは全然違って、独自の進化を遂げている。そういう環境に非常に興味が湧きます。
田才: 面白いですよね。しかも、行ってみて初めて知ったんですけど案外暑くない。
龍野: エクアドルって名前の通り「赤道直下」ですもんね。年中暑いイメージです。
田才: そうほぼ赤道直下なんですけど、全然暑くなくて。なんなら寒かったですよ。標高300mぐらいのところで霧がかかっていて、普通にジャンパーが必要なぐらい。一番高いところでも400〜500mぐらいと低いんですけど。本当に「丘」みたいな感じですよね。でも丘の上まで行くと霧が深くてめっちゃ寒い。

龍野: 意外ですよね。調べてみたら「フンボルト海流」という南極の方から流れてくる冷たい海流が影響していて、水温が低い。海の力の凄さを感じる面白い環境でした。
藤原: それは通年そういう環境なんですか?
龍野: そうですね。赤道直下なので、季節による変化が少なく安定しています。通年を通して比較的冷涼で過ごしやすい環境です。
田才: だからコーヒーが育つ理由が分かりました。赤道直下で標高は低いんだけど、冷涼な風のおかげで寒暖差があって、アラビカ種がちゃんと育つ。標高だけで見ると本来は厳しい条件なんですけどね。
藤原: 今回は11月に行かれたとのことですが、具体的な目的は何だったんですか?
田才: アグロフォレストリーが生物多様性に貢献するかを測るために、実際にどんな哺乳類や鳥類が生息しているかを「カメラトラップ(自動撮影カメラ)」を仕掛けて調査しました。コーヒー農園の木にカメラを仕掛けて、24時間定点観測をするためです。龍野さんが藪をかき分けて「この木がベストだ!」という場所を探して、カメラを括り付けてきました。
龍野: カメラトラップのインパクトが強すぎますが、植生調査もやっています。一番単純な対照区としては「慣行農法(コーヒーの木だけが植わっている状態)」ですが、今回はアグロフォレストリーなので、その上にシェードツリー(日陰を作る木)がどう生えているか。一層だけなのか、複層構造になっているのか、具体的にどういう樹種があるのか。そういう観点からも評価しました。その上でカメラトラップを仕掛けて、主に「中大型哺乳類」を対象に、一部の鳥類も含めて評価するという流れです。
藤原: 専門用語でさらっと言われましたが、「階層構造」が複雑であればあるほど生物多様性が高いと言えるんですか?
龍野: そうですね。森の「垂直的な広がり」があればあるほど、特に鳥類などにはポジティブに働きます。
田才: 知らなかったです。そう言われると、農園に行った時に目で見て分かりますね。木の種類だけじゃなく「高さ」も重要なんですね。

龍野: そうです。3m程度のコーヒーの上に、5m、8m、15mと高さのバリエーションがある方が、より複雑で多様性が高いと考えられます。もちろん樹種も大事です。果樹よりも元々の自生植物が生えている方が、よりナチュラルな環境に近いと言えます。
ただ、果樹は果樹で鳥の餌資源になったりもするので評価は難しいところですが、樹種によって来る生物が変わるのは確かですね。今回のチェック対象をまとめると、「林相(森の様子)」と「中大型哺乳類」、そして「鳥類」です。カメラトラップにはモーションセンサーとサーマルセンサー(熱感知)が搭載されていて、温かいものが動いたら撮影する仕組みです。なので、爬虫類などは撮れにくいですが、哺乳類と鳥類はしっかり映ります。ネズミなどの小型種は判別が難しいので、特にイタチぐらいのサイズ以上の「中大型」に着目しています。
藤原: 中大型というのは……?
龍野: ミディアムからラージですね。
藤原: ちなみに、今回ガラパゴスゾウガメとかもいたと思うんですけど、カメは映らないんですか?……あ、カメは「爬虫類」だからダメか!
龍野: そうですね、カメは恒温動物ではないので、基本的には撮影できません。
藤原: 生物への理解を深めないとですね(笑)。撮影期間はどれくらいだったんですか?
田才: 本来は長い方がいいんですが、プロジェクトの都合で1ヶ月程度のデータで一度分析しました。農園の人にデータを送ってもらったら、牛とか、グアヤキルリス、オポッサムとか。
龍野: 鳥は何でしたっけ。カラスみたいだけど調べたら「カッコウ」の仲間とか、いろいろ映っていましたね。驚いたのは、結構大きい「ピューマ」が、夜の11時前後に農園をうろうろしている映像が撮れたことですね。
藤原: ピューマ! すごいですね。……あと「オポッサム」ってどなたですか?(笑)
龍野: 実は僕が一番テンション上がったのがオポッサムなんです。珍しいかと言われるとそうではないと思うんですが、オポッサムって「有袋類」なんですよ。有袋類といえばオーストラリアのカンガルーやコアラを想像しますよね? でも、実は南米にもいるんです。有袋類は他の哺乳類との競争に負けて多くが絶滅しましたが、南米で生き残ったのがオポッサムなんです。だから「南米に来たならでは」の映像で、すごく嬉しかったですね。
田才: 僕もオポッサム知らなかったんですけど、画像調べたらめっちゃ可愛いんですよ。皆さんも調べてみてください。
藤原: カンガルーみたいに歩くんですか?
龍野: いえ、どっちかというとネズミをイメージしてください。4足歩行です。
藤原: あ、人間みたいに2足歩行ではないんですね(笑)。子供の絵本で立っているイメージがあったので。くまのプーさんみたいに…(笑)
龍野: それは……プーさん、もしくは、中には人が入ってるって言っちゃダメなやつですね(笑)。
藤原: 撮影して、今後はどういう話に繋がっていくんですか?
龍野: 科学的に厳密に詰めようと思ったら、何十台もカメラを置いて比較調査が必要ですが、既存の論文からも「アグロフォレストリーは生物多様性に寄与する」という傾向は示されています。今回のデータとそれらを合わせることで、「この農園は慣行農法よりも生物多様性にプラスに寄与しているだろう」と期待できる、という解釈ができます。
田才: そもそもなぜこれをやったかと言うと、僕たち「海ノ向こうコーヒー」は、環境に優しい農法を広めていますが、「本当に環境にいいんだっけ?」というエビデンスが、これまで少し曖昧だったんです。ある程度のエビデンスを持って「アグロフォレストリーは生物多様性に貢献している」と言いたい。今後、ガラパゴスのコーヒーを販売する時に「このコーヒーの森にはピューマやオポッサムがいます」というストーリーを伝えながら売ることで、新しい価値になるんじゃないかなと思っています。
龍野: 環境保全において「原理主義」になりすぎると、二進も三進もいかなくなってしまう。「正確に評価できないから何もやらない」となると、結局、慣行農法のものばかりが選ばれてしまう。グリーンウォッシングは論外ですが、エビデンスを持って「より良いもの」を広めていくことは、全体にとってプラスになると思うんです。
藤原: 今回は私たちが農園に設置させてもらいましたけど、農家さんからすると、これまではそういう動物がいることは「価値」になっていなかったんですよね?
田才: そうですね。今までってそれは別に価値になっていなかったと思うんですよ。理想は、生物多様性に貢献しているコーヒーがプレミアム(付加価値)として売られ、その収益が農家に還元され、さらに環境保全に繋がっていく……という経済的な循環を作ることです。
龍野: 「環境に負荷をかけたくないなら、コーヒー自体やめろ」という極論もありますが、人間が生きていくためには食べ物が必要です。だからこそ、その中での「より良いサステナブルな選択肢」を作っていくことが大事なんだろうなと思います。
田才: 販売の際も、ピューマの動画や可愛いオポッサムを見せて「こういう生き物が暮らしている森で取れたんですよ」と言うと、やっぱり訴求力が強いですよね。
龍野: マーケティング的にも、ピューマのイラストをつけて売るとか、楽しんで見てもらえそうですね。
田才: ちなみにガラパゴス諸島に関しては、中大型の哺乳類はいないんです。だからこそ独特な生態系なんですけど、その代わりに「カメ」がいる。農家さんも「カメが暮らせるような農園にしたい」とおっしゃっているので、今後はカメをフックにしたブランディングもあり得るかなと思います。

藤原: カメ、飛び出してきたりするんですか?
龍野: バンバンいます。道路にも普通に飛び出してきます。「カメ飛び出し注意」のサインボードもありました(笑)。
藤原: でもカメはゆっくりですよね。逃げてくれないから、踏まないように運転するのが大変そう。
龍野: 奈良の方が難しいですよ。鹿は突然飛んできますから(笑)。これまでコーヒー農園の動物や鳥ってあまり注目されてきませんでしたが、そこにも目を向けて、農園の新しい楽しみ方を伝えていきたいですね。
藤原: 以前、ヒロさんとのポッドキャストでも「適切なメガネ(視点)を持つことが大事」という話をしました。アグロフォレストリーの農園は、知らない人が見ると「雑草だらけで大丈夫?」と思われがちですが、知識というメガネで見ると「なんて豊かな植生なんだ」と見え方が変わる。今回は動物をフックにして、皆さんにその「メガネ」を持ってもらう良い取り組みだなと思いました。
龍野: まさにそうですね。詳しくない人と森に行くと「緑が綺麗ですね」と言われますが、僕らの眼鏡で見ると「これほとんど外来種やん……」と悲しくなることもあります(笑)。
田才: 今回バイオームさんと一緒に行って、お互いの専門知識(コーヒーと生物多様性)がフィールドの中で繋がっていく感覚があって、本当に面白かったです。
龍野: 僕も勉強になりました。実際に行ってみると、ほとんど農薬や化学肥料を使っていない。農薬を使わないということは、土壌微生物にもプラスの影響を与えているはずです。思った以上にアグロフォレストリーは「いけてる」なと実感しました。
田才: 哺乳類をフックにしつつ、目に見えない小さな生き物や昆虫の重要性にも目が向くといいですよね。
龍野: そうですね。人間はどうしても大きいもの(哺乳類など)を大事にしようと思いがちですが、ちっちゃいものにも面白い世界がいっぱいある。外虫(不快害虫)と言われる虫たちも、僕は大好きなんですけど、そういうものも含めて関心を持ってもらえたら嬉しいですね。
藤原: ああ、なるほど。なんで手厚い(大きいものを大事にする)んだろうなというのが単純にあったんですけど、見た目に大きいからなんですね。
田才: こんな話をずっとエクアドルの移動中のバスで龍野さんが話していて、ラジオ感覚でめっちゃ面白かったんですよ。
藤原: 分かります、ずっと聴いていたい(笑)。今回回った農園のコーヒーは買い付ける予定なんですよね?
田才: はい、そのうち皆さんの元にも届けられると思うので、豆が届いた時にはこの話を思い出してください。ちゃんとポッドキャストのリンクも商品ページに貼っておきます。
龍野: バイオームとしては、環境保全に寄与する取り組みを科学的な視点からサポートしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
田才: オフィスも近いですし、またぜひポッドキャストに出てください!
一同: 本日はありがとうございました!
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未来づくり推進室について
海ノ向こうでは、コーヒーを仕入れるだけでは解決できない課題をさまざまなパートナーと連携しながら解決していくため、「未来づくり推進室」を立ち上げて産地のコミュニティ開発のような活動を実施しています。




