海ノ向こうコーヒーで、生豆営業を担当している鍛治です。
今回は、インドの南部にあるカルナータカ州へ渡航したときのお話をご紹介します。

冬は一日の寒暖差が激しいインド。渡航を前に、昨年末から、実家の北海道へ帰省しては京都に戻り、その後沖縄に飛んでは京都に戻り、寒暖差を自ら作り出しコーヒー豆のように身を引き締めていました。

インド渡航は2026年1月26日から31日まで。海ノ向こうコーヒーのためにファインロブスタを作ってくれているパパクチ農園を訪ねた後、輸出前に欠点豆やグレードをコントロールしているドライミルにも訪問しました。

早速、パパクチ農園に参りましょうか。
パパクチ農園は、インド南部、カルナータカ州ウエスタンガーツにあるコーグ地区の、マディケリというところにあります。

最寄りのカヌール国際空港から車で3.5時間ほどの距離です。面積は200エーカー(約80ha)。広大な森の中に広がっています。

そこでは、インド独特の「2段階シェード」と言われる農法で、5mくらいの中木と20m以上の大木が、重なり合って強い日差しからコーヒーの木を守っています。農園の中に入ると、鳥の鳴き声や熟した果物が落ちる音、姿は見えずとも野生動物の気配を感じるガサガサという音が聞こえてきます。シェードツリーの管理もなされていて、心地よい風が吹き抜ける、気持ちの良い環境です。

確認できたシェードツリー:
フィッシュテイルパーム、レッドシダー、ホワイトシダー、ドゥパ(お香に使う)、ソープナッツ、アボカド、ジャックフルーツ、イチジク、ダダップツリー、シルバーオークなど
また、シェードツリーにはツタが絡んでいて、よく見るとコショウの実がなっていました。スパイスも一緒に育てているあたりはさすがインドといったところですね。お土産にパパクチ農園産のコショウを頂いてきました。

パパクチ農園は年間100tくらいの生産をしていて、メインの品種はロブスタ(カネフォラ種)。欧州・豪州・米国・日本が輸出先です。アラビカも20tくらい生産していて、メインは国内への販売ですが、ちょこっと輸出もしているようです。
今回の渡航で驚いたのは、コーヒーの木の幹の太さです。
これまでエチオピアやインドネシアなど、各地でコーヒーの木を見てきましたが、インドの、中でもロブスタの幹が太いのなんの。両掌では収まらないくらいの太さです。

聞いてみると、樹齢は平均で35年程度とのこと。私と同じくらいだ……すごい。
農園主であるパバンさんのおじいさんの代から続くこの土地にはほぼ100年経っている木も残っているようで、歴史の息づかいを肌で感じることが出来ました。
また、歳を取った木はカットバックをして若返りを施すのが一般的ですが、インドではほとんどカットバックせず、枝を横に広げてバオバブの木のように傘状に剪定することで、木を高くしすぎず収穫をしやすくしていました。子供のころにこんな環境がそばにあったら、格好の遊び場になっていただろうと思います。
コーヒーチェリーを摘み取るピッカーさんは収穫期になると30世帯くらいが住み込みで来てくれるようで、各世帯ごとに朝の7時からお昼過ぎまで収穫作業に入ります。ロブスタはアラビカに比べると一斉に開花して成長するので熟度が揃いやすく、「今日はこの区画で収穫する」と決めるなど、管理がしやすそうでした。

一方アラビカは、熟した実とまだ熟しきっていない実が混在するので、細やかに見なければ、うっかり見落として過熟になってしまうことがあります。また、ロブスタは節間が広く、節ごとにボコッ、ボコッと実が付いているので、両手で握って熟した果実をぽろぽろと落として収穫していきます。
木の下にはビニールシートを敷いて、チェリーが集まったらまとめて袋へ。一人が収穫する量は100㎏以上/日にも及びます。

アラビカは収穫が終わった後だったこともあり、たわわに実ったチェリーは見られませんでしたが、区画を分けて栽培されていました。
標高があまり高くなく、気温が高いためか葉っぱを見るとさび病がチラホラ。風のとおりが悪いところは特に、さび病が広がっていました。
非常に面白いというか、なんでやねんと思ったところがあったのでご紹介しますね。
さび病にやられてしまったアラビカの木をカットバックして、そこにロブスタを接ぎ木している区画がありました。パバンさんにとってはちょっとした実験みたいなのですが、土台がアラビカ、上がロブスタとしっかりとくっ付いている木がいくつも。中には一本の木で左がアラビカ、右がロブスタという面白い状態の木もありました。
なんで植え替えないのかと聞いたところ、さび病にやられていても根っこは元気だから苗木から育てるよりも接ぎ木したほうが収穫が早いそうです。

やはり産地ではそれぞれの気候や特性を加味した工夫がなされていて、これまで勉強して身につけた一般的な常識がすべてに通じるわけではないということを、実感できたのは良い経験でした。
ここでインドコーヒーの歴史を一緒におさらいしましょう。
< コーヒーの歴史 >
インドへコーヒー伝播の歴史は、17世紀にさかのぼります。
ババ・ブタンという有名なイスラム聖職者が、メッカ巡礼の際にイエメンのコーヒーを髭や杖の中に隠してこっそり持ってきたのがルーツとされています(どんな髭だったんやろ……)。
その時に、カルナータカ州のマイソール地方にあるチャンドラギリという丘に苗を植えたのが始まりと言われています。これはアラビカの伝播です。
一方ロブスタは、19世紀初頭にスリランカから持ち込まれました。当時のセイロンのペラデニヤ植物園から持ち込まれたことからペリディニア(オールドロブスタ)と名付けられたこの品種は、当時のインドで流行していたさび病の耐性品種として導入され、今も南インドを中心に栽培されています。
パパクチ農園には、この導入当時のもっとも古いペリディニアの木があり、インドのコーヒー研究機関への提供も行ったそうです。
まさにインドならではのオールドロブスタですね。
さて、パパクチ農園ではもう一種類のロブスタを栽培されていて、コンジェンシス種をベースにしてロブスタを掛け合わせたハイブリッド品種の、C×R(コンガスタ)です。中部アフリカのコンゴ盆地が発祥のコンジェンシスは、ロブスタ特有の麦っぽさが少なく、クリーンな味わいを持っていますが、収量が少ないことからロブスタと掛け合わせたコンガスタが作られました。
ペリディニア(オールドロブスタ)に比べると、ミューシレージが厚く、糖度が高くジューシーな味わいが特徴。
実際にコーヒーチェリーの食べ比べをしてみましたが、コンジェンシスの方が私の舌計測で糖度23度くらい強い甘味を感じました。

パバンさんもこの特徴を生かして、C×R(コンガスタ)は主にアナエロビックなどの特殊発酵のプロセスに用いているようです。
発酵には糖分が必要なため、C×R(コンガスタ)を使うことでより発酵感のある味わいが期待できそうですね。
ところで、パパクチ農園を歩いていると、ボトボトと何か落ちてくるんですよ。
何かなと思って足元に目をやると、道を埋め尽くすほどのイチジク。目の前に落ちてきたイチジクを拾って食べてみるとそこそこ甘かったので、
「コーヒーのアナエロビックのタンクに一緒に入れたら発酵が変わって味に影響しないかな?」と思い立ち、
パバンさんにお願いして1樽だけイチジクを入れてみました。アナエロビックフィグファーメンテーションの完成です(笑)

後でわかったのですが、発酵のスターターとして、イチジクに多く含まれるマグネシウムやカリウムはいい働きをしてくれるそうです。コーヒーチェリーだけでは生み出せない発酵がなされて、味わいがきっと変わるはず。
午前中に収穫されたコーヒーチェリーは、15時過ぎにはトラックに積まれて集積所に届きます。各世帯ごとに袋が分かるようにリボンで目印をつけられた袋に、真っ赤なコーヒーチェリーがぎっしり。
世帯ごとにその日の収穫量を計測していき、1㎏あたり6インドルピーで買い取られます。

収穫されたチェリーの熟度管理もされていて、完熟チェリーと未成熟チェリーの重さを各家庭ごとに計測していました。
完熟チェリーが多いほうが支払われる現金が多くなるわけですね。
ちょっと長くなってしまったので精選工程やドライミルの話は、次の記事でご紹介します。
本記事でご紹介しているパパクチ農園のコーヒーは、こちらもご覧ください。

インド パパクチ農園
ファインロブスタ ウォッシュ A
甘味を感じるクリーンなロブスタ。
