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社会学者としてラオスを研究するなかでコーヒーと出会い、気づけば農園を持ち、10年間ラオスに根を張り続けてきた「LuLaLao Coffee」代表の元川さん。以前、Podcastでは、ラオス南部と北部の違いや、焼畑農業とアグロフォレストリーが抱える葛藤についてお話いただきましたが、今回はそこからさらに一歩踏み込み、農園経営という仕事のリアルや今後の展望について、対談形式でたっぷりとお話を伺いました。
今回のスピーカー




土地から始まる、農園という仕事

宮崎: ラオスで農園をはじめて、最初に思ったことはなんでしたか?
元川: 農園を始めてすぐに感じたのは、「将来的には、産地側の立場が少しずつ強くなっていくかもしれない」ということでした。たとえば、売る側が「もう売らない」となれば、買う側はどうしても困ってしまうわけで、生産者とロースターの関係は、もっとフラットなものになり得ると思っていました。でも、実際に生産者の立場に立ってみると、意外とそうでもないかもと気づかされることがあって。
たまに、「この関係性も、時代とともに少しずつ形を変えていくのだろうか」と、ふと考えさせられることがあります。もしかすると、タイやインドネシアをはじめ、ほかの国の生産者の方たちも、同じようなことを感じる瞬間があるのかもしれません。

なにより、買ってくださるロースターさんたちのことが、単純に好きなんですよね。だからこそ、これからもいい関係を築いていけたらいいなと思っています。
ビジネスの話でいうと、川上を押さえておけば、川下は自然とついてくる部分があるので、上流を押さえておいて損はないと思っています。ただ、資金繰りに関しては、正直、思った以上に甘く見積もっていました。
10年、20年単位で腰を据えて考えないといけない話を、短期的な視点で見てしまっていたので、そこは反省点ですね。また、ラオスだけに事業を集中させすぎると、何かあった時に立ち行かなくなるリスクが大きいという危機感もあって、万が一の時にもビジネスを続けられるよう、ベトナムやタイ、マレーシアにも事業を広げています。

宮崎: 農地自体は広がっているんですか?
元川: それが、僕も知らない間に勝手に広がっているんです(笑)。ラオスは1エーカーあたり10万円くらいと土地が安いので、内容をよく確認しないまま勢いで買ってしまうこともあるんです。なので、僕が知らないうちに、スタッフの誰かが勝手に土地を買って、コーヒーの木を植えていることもあって。「勝手に植えないで」と伝えているのに、写真が送られてきて「3年後には収穫できますよ」と(笑)。
現地の仲間と築く、共同経営という形
宮崎: 事業をやっていて、自分で対応するよりも現地の人に任せた方がいいなと感じる部分もありますか?

元川: チェリーの買い付け交渉だけは、必ず現地のスタッフにやってもらっています。僕が行くと「日本人だ」とわかった瞬間に、外国人価格で値段が跳ね上がってしまうので。
村の人が仲間として担当してくれていて、基本的にチェリーにしても生豆にしても買い付けは絶対うちのスタッフか農園チームに任せて、逐一電話で報告を受けながら進めてもらっていますね。
僕がラオスにいる時も、一緒に行くか、あまり顔を出さないようにして奥に引っ込んでいます。本来は、僕自身が交渉相手と関係を築くのが理想かもしれません。でも、僕は常に農園にいるわけではないので、買い付け先と顔を合わせるのは、年に1回あるかないかくらいの頻度なんです。そんな関係性の相手に、価格面で融通を利かせてもらおうというのも、なんか違うよなと思っていて。そこは現地の担当者を信頼しているからこそ、「この価格までならいいよ」と上限だけ決めて、あとは任せるようにしています。
宮崎: 農園はどういう構造で成り立ってるんですか?
元川: 農園はいくつかあって、僕が持っている土地についても、現地ラオスの共同出資者たちと一緒に投資しているので、彼らも農園主という立場になります。
だから、僕が売りたいと言っても彼らが嫌だと言えば売れませんし、逆に彼らが売りたいと言っても僕が嫌だと言えば売れません。彼らには、家族に働いてもらったり人を雇ったりして動いてもらっていて、その給料は僕が払っているので、共同経営者でありながら社員でもあるという関係になっています。

西尾: 農園の方は、今全員で何人くらいいるんですか?
元川: 農園チームでずっと給料を払っているのは10人もいないと思います。
西尾: LuLaLaoとしてはカフェの事業もされていますよね。カフェの方は合わせて何人ですか?
元川: カフェは今、10人前後くらいですね。辞めたり入ったりしているので変動しますが、今後、2人くらい採用する予定です。僕自身は雇用にはあまり関与していなくて、マネージャーが雇う時に面接して確認してもらっています。マネージャーは2人いて、どちらも20歳です。
西尾: 20歳でマネージャーって若いですね。
元川: 若手に任せる分、それくらい任せないといけないのかなと思っています。でも今のところ真面目にやってくれているので、ありがたいです。
10年かけて選んだ、変えないという選択

山藤: 農園を経営するうえで特に重要視していることはありますか?
元川: 難しいですね。僕がサボったからといって、誰かに直接迷惑がかかるとか、誰かが困るというわけではないんですけど。強いて言えば、「毎年、豆を作らないといけない」という責任感はありますね。
宮崎: 今年で何年になりますか?
元川: 今年で10年目になります。
西尾: では、この10年間で変わったことはありますか?
元川: この10年間は、正直、あまりこだわりを持たずにやってきたかもしれません。「もっとこうしたい」「こんな精製をしてみたい」「いい精製機を使いたい」といった理想はいろいろあるんですが、それに固執しすぎず、力を抜きながら続けてきたことが、逆にここまで続けられた理由なのかなとも思います。それでも、会社としてブランドを続けていく以上、どこまで行けるんだろうという気持ちだけは、ずっと持ち続けていますね。
宮崎: 精製はどのように取り組まれているんですか?

元川: そうですね。地理的に精選所がある場所なので、近隣の農家さんも自分たちのチェリーをそこに持ち込んで加工していることが多いです。僕自身は、小ロットの実験的なものについては、スタッフには「これは触らないで」と伝えて、自分なりのやり方をいろいろ試すようにしています。特に日本向けや自分用、カフェ用のロットに関しては、必ず僕がタッチしたものを販売するという前提でやっているので、実際に手を動かして仕上げるところまで、自分でやるようにしていますね。
宮崎: 加工場は、それぞれの農園に併設されているんですか?
元川: 買い取った土地のところに大体加工場があるので、そこを使用しています。手回しの設備のところもあれば、電動のしっかりした設備があるところもあって、場所によってさまざまですね。

山藤: 精製については、毎年何か実験を繰り返されているんですか?
元川: 精製の検証だけはずっと続けています。やってみても変わらなかったこともありますし、新しく挑戦して変化があったこともあります。たとえば、アナエロビックのナチュラルでは、発酵が進みすぎて急に発酵ガスが噴き出すようなこともあって。
とはいえ、それをやったからといって飲めないコーヒーができるわけではなく、結局は乾かせばナチュラルになります。ウォッシュドの方も、水に浸けておく工程自体は安定していて、大きな失敗はありません。ただ、豆の出来自体は天候や収穫量によって毎年変わるので、そのブレはどうしても出てしまいますね。
ティピカのウォッシュドに関しては、農家さんが元々作っていた方法をそのまま変えていません。毎年ブレはあるんですけど、去年は当たり年で、非常に美味しく仕上がりました。今年は収穫量が多かった影響か、去年ほどの当たり年ではないなと感じていますが、品質としては一定のラインは保てているので、無理に変えずこのままでいいのかなと思っています。ティピカに関しては、自分から新しいやり方を持ち込まず、むしろ農家さんが変えようとするのを止めるようにしています。

宮崎: 去年のティピカは今でも印象に残っているくらい、確かに美味しかったです。
元川: 何年かに一度来る、当たり年という感じですね。ブレはどうしても出るので、日本に出すロットの品質も年によって上下しますが、そこは頑張っていきたいと思っています。
会社として生き残るためには利益を確保する必要があります。大量に売れるビジネスではないので、価格を下げると、そのまま利益が減ってしまうんです。
たまに、仲のいい取引先から「高すぎるだろ」と言われることもありますが、それは重々承知していて。それでも、価格を守りながら品質もさらに上げていく必要があるので、その両立が正直なところ難しいですね。

宮崎: 土壌づくりについても何か実験されていますか?
元川: 堆肥はいろいろ作っていますが、昔から農家がやってきたやり方も理論的には間違っていないと思うので、あまりお金をかけない方向で作っています。堆肥は1年、2年かけて育てて、その土地の材料で作ったものを使う方が、木にもよく合うんですよね。
ただ、無限にできるわけではないので、そこは悩みどころです。苗木を育てる工程では、あまり良い環境で育てすぎると、次の環境に耐えられずに弱って死んでしまうこともあるので、そこには特に神経を使っています。とはいえ、適当に生えているものが勝手に育っていたりすることもあるので、実は特別なことをしなくても育つのではないかという説もあるんですよね(笑)。

宮崎: 地面に落ちたチェリーが自然に育っていたりすることもよくありますよね。
元川: どこの土がいいかというと、実はそういう話でもないんです。人間と同じで、甘やかしすぎるとかえって弱くなるのかもしれませんね。結局、人間がやっていることなんて、大したことないんだなと感じます。
資金繰りという、経営者のリアル
西尾: 経営をするなかで、これは苦労したな、失敗だったかもというエピソードはありますか?

元川: 大きな失敗というのは、あまりないですね。もちろん、農園の栽培自体は、毎年何十キロという単位で失敗したり、木が全滅したりすることも珍しくないんですけど、それはある程度想定の範囲内というか。以前、ジャワの木が全滅したこともありましたが、これに関しては、人間がコントロールできる範囲外のことなのでしょうがないなと思っています。
経営という意味での大きな失敗は、あまりないですね。あえて言うなら、資金繰りが常に苦しいということくらいです。
会社で働いた経験がなかったので、資金繰りの大変さがよくわかっていなくて、基本的には不安を感じずにやってきました。それでも、年に数ヶ月だけストレスを感じる時期があるくらいで、それ以外は特に何とも思っていないですね。コーヒーの出来が良い年もそうでない年も、そこまで悩んだことはないです。どんなロットであっても、きちんと商品としての魅力を伝えて売るのが自分の仕事だと思っているので、そのあたりは、少しドライなのかもしれませんね。
ただ、ある程度戦略的に、きちんと扱ってくれそうなところを選んで卸すようにはしています。誰にでも売るわけではなく、ブランドの価値をきちんと理解して扱ってくれる相手かどうかを見極めるようにしていて。それは僕個人が用心深いからというより、ブランドを守るための判断としてやっていることです。
宮崎: そんななかでも、ずっと続けていられるのは、続けなければいけないという責任感というか、辞められないという感覚があるんですか?

元川: 辞めたら、他にできる仕事がないというだけですね。社会にうまくフィットできる人だったら、とっくに辞めて正社員として働いていると思います。でも、今さら企業で働けるかと言われたら、正直働けないと思うので、自分でやっていくしかないです。
ラオスの人と働くということ
西尾: 元川さんは、普段ラオスの人と働くことが多いと思いますが、ラオスの人たちってどんな性格の人が多いですか?
元川: ラオスの人たちは、ごまかすことがなく、真面目で、誠実さがある気がします。ダメなら「ダメ」と言うだけで、駆け引きをしようとする感覚がないんですよね。そう考えると、彼らの誠実さに、僕らの方が甘えているのかもしれませんね。
西尾: ラオスの方は日本と時間の感覚が違うという話も伺いましたが、実際に一緒に働いてみて、ほかに違いを感じることはありますか?

元川: 正直、噛み合わないなと感じる場面は結構あります。ただ、ラオスの人たちが苦手というわけでは全くなくて、単純に、育ってきた教育環境の違いがあって、報連相のような習慣を学ぶ機会があまりなかったんだなと思います。たとえば「これ、5種類あるから、100グラムずつ袋に入れて、店舗販売用にいくつか準備しておいてね」と伝えても、各種1個ずつで5個しか作っていないなんてこともあります。「5種類それぞれ何個ずつ必要かまでは言われていないから、とりあえず1個ずつ作っておけばいいだろう」という感覚なんですよね。
西尾: そこをどうやって教育していくんですか?
元川: マネージャーには、しっかり伝えるようにしています。たとえば、ラオス人が僕に荷物を渡すときに中身が飛び出しそうな渡し方をしても、本人はまったく気にしていないんですが、「それを渡されたら、あなたはどう思う?」と聞くと、そこで初めて「嫌かも」と気づくんです。実際に、自分がされる側になってみると「あ、確かに」とわかるみたいですね。つまり、決して自分本位でやっているわけではなくて、単純に、そういう考え方を学ぶ機会がなかっただけなんだと思います。
たとえば、配達をしたら写真を送って「配達しました」と報告するとか、伝言を伝えたら「伝えました」と一言連絡するとか、そういうこともすべてひとつずつ教えていく必要があります。ただ、うちのチームは1年半、2年と働いてくれている子たちなので、ある程度理解力はついてきていると感じています。

山藤: 育ってきた環境によるところも大きいんでしょうね。日本人とラオス人の感覚は違って当たり前だけれど、コミュニケーションを取り続けるなかで、相互理解できることも増えていくというのは大変ながら素敵なことだなと思います。
ラオスの先に見据える、次の景色
山藤: 今後、ブランドを育てていく上で、力を入れているポイントはありますか?
元川: 難しいところですね。たとえば、国内の有名ロースターに豆を卸すと、うちでは30キロもなかなか売れないような豆が、あっという間に売れていくのを目の当たりにするんです。コーヒーの品質の良し悪しとは関係なく、置くだけで売れてしまうようなブランド力があるんだなと感心します。僕のブランドはそこまでの規模ではないので、せめて下に見られないくらいのブランド力のある企業にしたいと思っています。
山藤: ラオスの豆だけで売っていく大変さについてはどうですか?「アジアの豆だからな……」みたいな先入観を覆しに行くのって、結構大変だと思うのですが。

元川: 最近、先入観が一番強いのは、もしかして、自分自身なのかもと気づいたんです。普段、「うちの豆は高いので」と、つい自分からお客様に言ってしまうことがあるんですが、とある有名ロースターの社長さんに「高いと決めるのはお前じゃない、お客様が決めることだ」と言われて、ハッとしたんです。これはすごく大事な指摘だと思ってすぐにメモしました。
その人の言う通り、高いかどうかを決めるのは本来僕ではなくて、お客様なんですよね。それは購入してくださる方に失礼な発言だったと反省し、それ以降、気をつけています。
今では、自分で自分の商品の価値を下げてしまうと、高く売る意味がなくなってしまうので、堂々と、むしろもっと高く売ろうというくらいの姿勢が大事だと思っています。うちのような小さな規模の会社が、大手と同じ価格帯で勝負しても、到底敵いません。だからこそ、しっかり価値を取っていかないと、うちのような会社は成り立たないという現実があります。
宮崎: 最近ですと、タイやマレーシアにも行かれていますが、現地の生産者からは、元川さんのような立場の方はどう見られているんですか?

元川: 決して好意的に見られるだけではないと思いますよ。インドネシアやタイのような、すでに実績のある生産国では、僕らのような立場が「結局は外から来て、いいところだけ買い付けて売っているだけの存在」だと見られることもあります。ただ、逆に言えば、そこにこそ僕らのようなやり方の価値があるとも思っていて。ただ買い付けて売るだけではなく、自分たちで農園を持ち、生産者としっかりつながっているからこそ、こうした厳しい経営環境の中でもやっていけるんじゃないかなと思っています。
宮崎: 産地間の見られ方の違いみたいな視点を、元川さんと一緒に研究的な形にしていけたら面白そうですね。
元川: いいですね。海ノ向こうコーヒーさんは、スピード感を持って動けるところがいいですよね。大きな会社だと、一年後の予定を入れることすら大変だったりするので、その点はパートナーという立場から見ても、いいなと思います。
西尾: 今後の展望というところで言うと、例えば、コーヒーの大会などに興味があったりしますか?というのも、最近、私の周りでもコーヒーの抽出の大会に挑戦する人が増えていて、理由を聞くと「実際に農園に行ってみて、これはプレゼンしたいと思えるような産地の豆に出会えたから」という人もいますし、「自分の好きな産地を、もっと有名にしたいから」という人もいるんです。ここ数年は、実際に農園に足を運んで生産者と直接つながりを持っているロースターやバリスタの方が、数多く出場したり、結果を残している傾向がある気がしていて。元川さんのように、自分で農園を持って事業を広げている方も、そういう大会に興味はあったりするのですか?

元川: ブリューワーズ大会には、自分も出てみたいと思うこともあります。抽出の技術そのものは、バリスタやロースターでも語れると思うんですが、豆の話になったときに、実際に産地へ行ったことがない人が語るのと、自分で農園を持っている人間が語るのとでは、説得力がまったく違うと思っています。農園の人の立場で豆の魅力をプレゼンするというアプローチができるのは、自分ならではの強みなのかなと思っています。
西尾: 元川さんのプレゼンを聞いてみたいです。いつか出てください。(笑)
元川: 抽選さえ通ればですけどね。ブリューワーズはまずはそこを通過する必要がありますから(笑)
宮崎: 本日は、農園を運営する上でのエピソードやブランドに対する想いまで本当にたくさんのお話を伺うことができました。実際に農園を経営してきたからこそ語れるリアルが、たくさん詰まっていたように思います。本日はありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。
元川: ありがとうございました。
土地や人と向き合うことから、資金繰りまで、農園経営のすべてを担ってきた元川さん。ラオスという一つの産地を拠点としながらも、その視点は常にアジア全体、そしてコーヒー業界の未来へと向いています。ただ豆を売るのではなく、生産者ともロースターとも誠実に向き合い続けること。その積み重ねが、元川さんならではのポジションをつくり上げているのだと感じました。


