パプアニューギニアで見えた、コーヒーと人をつなぐもの/MOUNT COFFEE代表・山本昇平

2026年7月、約1週間にわたってパプアニューギニアへ渡航したMOUNT COFFEEの山本さん。今回は、実際に産地を訪れたロースターが何を感じたのか、ロースター視点の産地レポートをお届けします。

広島市西区にある自家焙煎コーヒー豆専門店、MOUNT COFFEE。店主の山本昇平さんは、19歳のときに訪れたカナダでコーヒー文化に触れたことをきっかけにこの世界へ入り、2014年に独立して開業しました。生豆と向き合い、産地や生産者の声を届け、コーヒーを通じてさまざまな人と繋がってきた山本さん。この産地訪問は彼にとってどんな意味を持つものだったのでしょうか。

今回のレポーター

2026年7月18日から24日まで、海ノ向こうコーヒーの山本さん、東珈琲店の東さんとともに、パプアニューギニアを訪れた。

今回の滞在で巡ったのは、ゴロカ、アサロ、マウントハーゲン周辺。四つの農園と三つの輸出会社を訪問し、農園やウェットミル、ドライミルを視察し、各地域のコーヒーをカッピングして回った。また、今回の旅にはもうひとつ目的があった。それは、グローバルサウスにおける温室効果ガス削減の可能性を調べることだ。コーヒーチェリーの加工や発酵で生じる果肉などを、乾燥させた「カスカラ」として活用できないか。その可能性を探りながら、生産現場を見て回った。

規律が品質をつくるコルブラン農園

最初に訪れたコルブラン農園は、ニュージーランド出身のニコル・コルブランさんが父親から受け継いだ広大な農園だった。

ニコルさんは強いリーダーシップでスタッフをまとめ、園内は隅々まできれいに管理されていた。ゲイシャなどへの植え替えや樹間の調整も進められ、品質と生産効率の両方を高めようとする姿勢が伝わってきて、思わず感心した。

古い区画は、高い木々に囲まれた林の中でコーヒーが育つ。一方、新しい区画では、お茶畑のように木々が整然と並んでいる。ふたつの風景を実際に目にして、コルブラン農園がパプアニューギニアの中でも特別だといわれる理由がよくわかった。

マッドマンの文化が息づく森の農園

アサロ地域のSEED COFFEEは、コルブラン農園とは対照的な、森の中にある農園だった。高い木々の下でコーヒーが育つ風景は気持ちがよく、個人的には、今回訪れた農園の中で一番好きな雰囲気だった。

アサロには、全身に泥を塗り、恐ろしい仮面をかぶった人々が敵を驚かせて土地を取り戻したという「マッドマン」の伝承が残っている。現地では、大人や子どもたちによる迫力ある実演も見せてもらった。

山本さんは、この地域の豆を「マッドマンコーヒー」と名付けている。標高や品種だけでなく、土地の文化や歴史も一緒に伝えることで、飲む人と産地との接点をつくりたい。そんな想いがあるそうだ。

農園には、樹齢約70年とされる太いコーヒーの木も残っており、その存在感に圧倒された。また、肉や野菜を土の中で蒸し焼きにする伝統料理「ムームー」をいただき、この土地の食文化にも触れることができた。

SEED COFFEEでは、限られた設備の中で、害虫対策などさまざまな工夫を重ねている。ボルカフェで事前にここの豆をカッピングしていた山本さんは、甘さをさらに引き出すため、発酵時間を12時間から24時間へ延ばすことを提案した。

一方、農園をまとめるピーターさんは「改善するにも、まずは買い取り価格を上げてほしい」と訴えた。品質向上には手間も費用も必要だ。作り手の努力だけでは解決できない現実を、目の前に突きつけられた気がした。山本さんは、きれいな水を使えば、よりクリアな味になる可能性もあると考えていた。ただ、最初から多くを求めるのではなく、まずは取り組みやすい発酵時間から試す。現場の状況に合わせ、一段ずつ改善していくことが大切なのだという。

エマさんが築く丁寧なサプライチェーン

輸出会社のジワカコーヒーでは、代表のエマさんの姿勢が印象に残った。

エマさんは、地域の農家と一緒にスペシャルティコーヒーをつくろうとしていて、賛同する農家からは通常より高い価格で豆を買い取り、ワークショップも開催していた。

そのワークショップでは、いきなり栽培や品質管理を教えるのではないらしい。まずはコーヒーの歴史を伝え、生産、加工、輸出、輸入、焙煎を経て消費地に届くまでの流れを説明し、そのうえで、加工方法や品質について学んでもらうという順番なんだそう。 

すぐに生産量を増やすよりも、スタッフの生活や農家の技術向上を優先し、その積み重ねによって良質なコーヒーを少しずつ増やしていく。面倒なことを省略せず、一つずつ理解を築いていく誠実な姿勢に、心を動かされた。

地域のレジェンド、ポールさんとの対話

エマさんの案内で訪れたのが、マウントハーゲン地域にあるポールさんの農園だ。

ポールさんは1987年、当時はげ山だった場所にコーヒーを植え、地域に栽培を広げたまさに“レジェンド”と言える存在。現在は広大な土地を農家に貸し、農家はそこでコーヒーを育て、生活のための収入を得ているという。

ポールさんは、流通に多くの会社が入ることで、豆の行き先やお金の流れが見えにくくなると考え、ダイレクトトレードに関心を持っていた。

それに対して山本さんは、ダイレクトトレードだけが答えではなく、関係する人たちがもっとコミュニケーションを取ることが大切だと説明した。

生産者には、庭先で少量を作る人も、大規模に生産する人もいる。消費地にも、毎月大量に必要なロースターがいれば、少量だけ必要な店もある。それぞれを取りまとめ、適切につなぐことが、輸出会社や輸入会社を含むサプライチェーンの役割なのだ。

「生産地も消費地も同じなんだ」という説明を聞き、ポールさんたちの表情が変わったのが印象的だった。それぞれの立場と役割を知り、信頼できる流れを一緒につくることが重要なのだと感じた瞬間だった。

まず知ることから始める

最後に訪れたシグリ農園は、大規模な設備が整い、園内も清潔に保たれていた。高いシェードツリーの下にはコーヒーの木が並び、働く人たちの明るい雰囲気も印象に残っている。

今回訪れた四つの農園は、経営形態も設備も、働く人たちの様子も大きく異なっていた。

多くの民族と言語が存在するパプアニューギニアだからこそ、それぞれの地域や人に合ったコーヒー産業の形が生まれているのかもしれない。

また、今回の旅でカッピングをしながら、山本さんとの視点の違いにも気づいた。僕たちロースターは、「どの豆がおいしいか」「どの豆を仕入れたいか」を第一に考える。一方、山本さんは「どうすれば、この豆がもっとよくなるか」を考えていた。これは、評価するだけでなく、生産者と一緒に次の品質をつくろうとしているからなのだと感じた。

産地の人たちは、日本で誰がコーヒーを焙煎し、販売しているのかを知らない。それと同じように、僕たちも、誰がどのように育て、加工し、輸出しているのかを十分には知らない。

だからこそ、まずは互いを知ることから始める。品質だけでなく、その土地の文化や歴史、作る人の思い、流通に携わる人たちの役割を知る。そこから想像力が生まれ、課題も見え、その先にある「コーヒーの続き」を一緒につくれるのだと感じた。

パプアニューギニアのコーヒーが日本に届いたときには、現地で見聞きしたことも、皆さんにお届けできたらうれしい。


今回の渡航話は、スピンオフとしてPodcastでもお届けしています。ロースターの視点からみる産地の話やパプアニューギニアならではのサプライチェーンの話など現地のリアルなエピソードもあわせてお楽しみください。

TEXT / SHOHEI YAMAMOTO(MOUNT COFFEE)
EDIT / KAE NISHIO

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