産地訪問(パプアニューギニア)

海ノ向こうコーヒーで部長と産地担当をしている山本博文による連載をお送りします。
今回は、まだまだ日本で知られていない、パプアニューギニアのコーヒー産地へ行ってきました!

「私が信じるのは、ちゃんと栽培して、完熟のコーヒーチェリーをちゃんと発酵させて、ちゃんと乾燥させて、綺麗に精選することです。」

農園主のニコール・コルブランさんが持っているモットーだ。

コルブラン農園

パプアニューギニアの最高品質のコーヒーを作り出す隠れた大農園だ。日本で多く出回っているコーヒーは、首都のポートモレスビーからみて、北西部のマウントハーゲン付近。JiwakaとかChimbuと呼ばれるような場所だ。

しかし、この農園は北東にある。カイナントゥと呼ばれるその街の郊外にコルブラン農園はある。このカイナントゥを超えてさらに東に行くとラエと呼ばれる港に着く。

ここがパプアニューギニアのコーヒーが出港する港だ。

引用元:Googleマップ

1962年、彼の父がこの場所でコーヒー農園を始めた。最初はとても少なく、植えたのも数ha程度。それから徐々に大きくしていった。

現在では300haにもなるほどの土地でさまざまな品種のコーヒーを育てている。品種は、アルーシャ、ティピカ、ブルボン、カツーラ、ムンドノーボ、そしてゲイシャとほんの少しのカティモール。もともとこの地域にはティピカとブルボンが多かったそうだ。

シェードツリーはCasuarina。モクマオウ属の仲間で松の木のような形と葉の形状をしている。現地語で「ヤー」と呼ぶらしい。通常松の木は松葉にヤニが含まれているため、コーヒーの栽培には適さないが、このモクマオウ属はそれがない。またその葉に小さな節があり、プツプツと手で切れてしまうほど。そのため土壌でたい肥になりやすく、肥沃になる。

「この苗場では22万本ぐらいの苗木を作っている。そこにあるのがアルーシャで、そっちがゲイシャだ。」

農園の経営というのはなかなか骨が折れる。たい肥を与え、雑草をとり、木を植え替えて、土地を開墾する。そのため、農園にはショベルカーやトラックといった建築するために使うような設備が揃っている。2年前からゲイシャの栽培を始めており、今年はそれなりの収穫が期待できるようだ。

定植の仕方はハワイのそれと似ている。綺麗に一列に並ぶ樹の樹間は1~1.2m。列間は2~2.5m程度。

そうすることで列の間のスペースを芝刈り機や耕運機が通ることができ、メンテナンスがはかどる。雑草をすき込むことによって土壌も肥沃になる。

雨季が10月〜3月、4月ぐらいまであるため、ちょうど訪れた3月は雨季の終わり頃。芝刈りを始めていた。農園は区画ごとに名前をつけており、それぞれロット分けをおこなっている。

60人のスタッフを正社員として雇っており、それ以外に収穫期となると500人以上の収穫スタッフがアルバイトとして必要となる。収穫期ともなると、加工場には夕方ごろにものすごい量のコーヒーチェリーと人が集まり、夜通しで加工が行われる。

チェリーは常に品質チェックが行われ、未成熟が多い場合、スタッフにはその場で手選別を徹底してもらっているようだ。コーヒーチェリーを1日に100トン分処理できる水洗工場では、3つの入口があり、収穫されたコーヒーチェリーは区画ごとに別ロットとして果肉除去され、別々の発酵槽で処理される。必要な時は乾燥機を使うが、できるだけ天日乾燥で乾燥するように心がけているそうだ。残念ながら乾燥はまだ始まっていなかったが、天日乾燥時には何十人ものスタッフが定期的に撹拌をアフリカンベッドの上でおこなっている。

特に変わった精選方法はしておらず、完熟したチェリーを丁寧に加工すること。それが1番大切だという信念を持っている。実際に出来上がる品質は、パプアニューギニアの中でも1番と言って良いほど品質が高い。通常、この国のコーヒーは、クリーンで明るく飲みやすいと言った印象のコーヒー。しかし、コルブランのコーヒーは華やかで、フローラルさがあり、厚みのあるジューシーさがある。とても甘い。浅煎りでも深めに焙煎してもその甘さが常にある。

嫌気性、カーボニックマセレーション、インフューズド、酵母菌。いろいろな加工方法、発酵方法がもてはやされている昨今、彼らが作り出すコーヒーは一貫して徹底している。

「良いコーヒーを丁寧に加工する」

とてもシンプルでとても大変な労力が伴うが、それをちゃんと今までずっとやってきたのだと思うと、頭が上がらない。

「私はもういい歳だから引退したいんだが、どうしても気になって口を出してしまうんだ。いかん癖だなーと思っているが、品質や農園管理のことが少しでも目に入ると言っちゃうんだよなぁ」と語るニコールさんは70歳。現在は娘と娘婿にできるだけマネジメントをしてもらうようにしているが、対外的な話はニコールさんが対応している。

今年は昨年と比べると少し収穫量が落ちるらしい。でも品質は昨年よりも良くなるだろうと予想している。たくさんの実がなると、どうしても香味が弱くなるが、今年は収穫量が少なくなる分、比重の重いコーヒーがたくさんできるだろう。

パプアニューギニアはおそらくどの生産国よりも色々な問題が起きやすい国だと思う。別の記事でパプアニューギニア全体のことは書く予定だが、800の言葉があり民族がおり、民族同士の闘争があり、政治的な不安定さ、汚職などで、遅々として物事が進まないことが多い。実際に私がいる間にも輸出されるはずだったコンテナが輸送中に盗賊に盗まれたらしい。そんな国で半世紀以上も続けている農園はなかなかない。続けるだけではなく、素晴らしい品質を作り出している農園だ。

まだ試したことのない方は是非試してもらいたい。期待を裏切らない品質にきっと満足していただけると思う。

次のニュークロップは今年の9月~10月ごろになる。きっとさらに美味しいコーヒーになるだろう。期待して待とう。


引用元:Googleマップ

パプアニューギニア コルブラン農園

ナッティな印象の物が多いパプアニューギニアですが、コルブラン農園のこのクロップは酸味が非常に明るくフレッシュでジューシーな味わい。そして、飲み終えた後には心地よい紅茶のようなフレーバーが鼻から抜けてゆきます。特に深煎りでは、この酸味と甘味、苦味が調和して立体感のあるコーヒーをお楽しみいただけます。