「当たり前の美味しさ」の価値に気づく

海ノ向こうコーヒーの関わる産地のひとつ、ミャンマー、シャン州。日本のロースターさんたちの協賛のもと、現地パートナーのジーニアスコーヒーとともに、村ごとに加工場を建設し、地域のマイクロロットをつくることで、個性ある品質の高いコーヒー生産を目指す「マイクロミルプロジェクト」に取り組んできた産地です。

そんなミャンマーではクーデターが発生し、軍事政権が発足しました。情勢不安が続き、軍に抵抗する住民が拘束されることが少なくありません。「この農家さんの最新の写真ありますか?」と依頼した時のこと。返ってきたのは『その農家さんは捕まってしまったよ』という返事でした。マイクロミルプロジェクトで関わってきた農家さんにも影響が及んでいることを実感し、言葉を失いました。

ジーニアスコーヒーの代表のゲトゥンさん も、品質管理担当として農家さんたちの指揮をとってきたチャインコーマーさんも、ミャンマー国外へ避難を余儀なくされ、現在もミャンマーには戻ることができていません。現場にとどめ役のいないミャンマー、シャン州。遠隔地からのマネジメントが簡単ではないということは、コーヒーの品質や得られる情報の曖昧さにも現れています。

「中米のコーヒーにも引けを取らないくらいの酸味とフレーバーの特性が出てきて、アジアのスペシャルティコーヒーをけん引していく産地になると思っていたのに……」。海ノ向こうコーヒーチームの中からそんな声も聞こえてきます。年々品質の向上を感じていた矢先、少しずつ着実に積み重ねてきたものが、あっけなく崩れてしまい、無力さを感じています。

美味しいコーヒーが飲める。それが当たり前で、これからもそうであるかのように思ってしまいます。しかしながらそれは、何かの拍子で失われてしまう脆さを持ったもの。今日美味しいコーヒーが飲めるからといって、明日もそうとは限りません。当たり前が当たり前ではなくなった時に、その価値に気づくのかもしれません。


ミャンマー ジーニアス

ウォッシュ G1

柑橘のフレーバーと明るい酸味が特徴◯

この記事を書いた人
海ノ向こうコーヒー |宮﨑 咲弥
2023年に坂ノ途中に入社。海外の生産とのやり取りやコーヒーの仕入れや品質管理などを担当している。