ルワンダコーヒーのテロワール、ポテト臭について

ルワンダのコーヒーと切っても切り離せないものといえば、ポテト臭(ポテトフレーバー、ポテトディフェクト)。聞いたことがある方、実際ににおいや味を感じたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

その言われの通り、ジャガイモのようなにおいがするのが特徴です。まさに、料理でジャガイモを切ったときの、少し青臭いような、あのにおいです。SCAのカッピング評価では、ポテト臭を欠点としています。コーヒーの素材が持つ、豊かなフレーバーを打ち消すこともあるため、ネガティブに捉えられ、やっかい者扱いをされてしまっているのが現状です。

1本のコーヒーの木からポテト臭の原因となるコーヒー豆が発生する確率は、数粒あるかないかぐらいですが、その1粒があることで、焙煎や粉砕、抽出のときに、ジャガイモのようなのにおいがその場全体に漂います。本当かどうかは分かりませんが、「1粒あるだけで、25mプール全体をポテト臭にそめてしまうぐらいの影響を及ぼす」という話も聞いたことがあります。

ポテト臭はルワンダ以外の国でも

ポテト臭/Potato taste defect(PTD)は、ルワンダのコーヒーの代名詞とも言えますが、ポテト臭が発生するのは、実はルワンダのコーヒーだけではありません。ルワンダの近隣諸国のブルンジやコンゴ、ウガンダのコーヒーでも起こり得ます。事例は少ないのですが、タンザニアやケニアのコーヒーでも稀に生じます。

カメムシが原因?

ポテト臭のするコーヒーを飲んだとしても、ジャガイモのような味が口の中に広がるだけで、人体への影響は特にありません。

これまでの研究では、ポテト臭の原因は「2‐イソプロピル‐3‐ 2-メトキシピラジン/isopropyl3-methoxypyrazine (IPMP)」と「2-イソブチル-3-メトキシピラジン/2-isobutyl-3- methoxypyrazine (IBMP)」という2つの物質が関連していると言われています。

どちらも自然界に存在する物質で、ひとつ目の物質はダイズやジャガイモ、ピーマンなどに存在しています。ふたつ目の物質はグリーンピースやジャガイモ、特にピーマンの香りを構成するうえで重要な物質なんだとか……。

これらの物質を発生させる要因が、「アンテスティア/Antestia bug」というカメムシの一種の存在だと言われています。発生のメカニズムは、今もまだ特定がなされていませんが、アンテスティアがコーヒーの果肉や種子を食べ、そこに細菌が付着することで、においを発生させる物質が生じるのではないか、と考えられています。

アンテスティアは、西アフリカ諸国から中央アフリカ諸国、東アフリカ諸国、北はエチオピアでも生息が確認されている、アフリカ大陸には案外どこにでもいるカメムシです。標高1,000m〜2,100mほどの地域に生息しています。見た目は黄色いテントウムシのような感じで、好きなコーヒーはカネフォラ種よりもアラビカ種なんだそう。

アンテスティアは広い地域に生息しているのにも関わらず、特にルワンダを中心にポテト臭が発生しているのは、その地特有の菌が由来しているのかもしれませんね。

ポテト臭を防ぐ、生産者の知恵と工夫

ポテト臭は生産者さんたちも気にする話題です。発生を防ごうと、産地ではさまざまな努力をされています。
例えば、コーヒーの木の剪定。アンテスティアは枝葉が密集した日光の当たりにくいところが大好きです。剪定で適度に枝葉を落とし、風通しを良くすることで、アンテスティアの繁殖を防ぐことができます。

ルワンダの農家さんの中で時折見かけるのが、白い花の写真のついた有機防虫剤の使用です。白い花の正体は除虫菊。
余談ですが、実はルワンダは、花の生産にも力を入れている国で、除虫菊もまたルワンダの主要輸出作物のひとつです。日本の夏に大活躍の蚊取り線香の原料にも使用されています。

ルワンダでは、アンテスティア対策として、除虫菊でつくられた防虫剤を使用する農家さんもいるようです。タバコやトウガラシの成分を防虫剤として散布するのもよく聞く話です。

ウォッシングステーション/精製加工場では、水を入れたバケツやタンクにコーヒーチェリーを投入し、浮力選別を行うことで、虫食いの影響を受けて軽くなってしまい、浮いてきたものを取り除きます。また、乾燥棚では、目視でコーヒー豆を一つひとつ確認し、手作業で虫食い豆などを取り除きます。こうしてアンテスティアの被害を受けたコーヒー豆を可能な限り取り除く努力をしているのです。

「カラーソーターのUVセンサーでポテト臭の原因の豆を特定して、はじくことができる」という話も聞いたことがありますが、すべての生産者さんでカラーソーターを導入するのは現実的ではありません。

ポテト臭は、
ルワンダコーヒーならではのテロワール

ポテト臭を感じたら、「わー、ポテト出てるわ……」と思ってしまいますよね。ポテトが何度も出ると、「わ、またポテトや…」と残念に思ってしまうかもしれません。私もそう思ってしまう人のひとりです。

いろんな研究者の方が原因を探求してくださっていますが、その原因は特定されていません。
多くの生産者さんがそれを防ごうと努力をされていますが、抜本的な解決策は見つかっていません。

「ルワンダのコーヒーっておいしいよねって言いながら、ポテト臭があるからっていうだけで簡単に避けられてしまうのは、とても残念。ポテト臭にはアンテスティアだけじゃなくて、このルワンダの土壌も関係している。今の世界基準の評価方法だと、ディフェクト扱いだけど、ポテトもマンゴーとかオレンジとかとおんなじように、ひとつのアロマやフレーバーの特徴だと思う。マインドセットの問題だよね……」

知り合いのルワンダの生産者さんが話してくれた言葉です。確かに、ポテト臭もテロワールが生む特徴のひとつなのかもしれませんね。

流行りの特殊発酵系のコーヒー。イースト菌を入れて発酵に工夫を加えることで、味わいをつくっている、ルワンダのとある生産者さんにお会いしたときのこと。

「これで、もしポテト臭が出たとしても、ただのポテトじゃなくてスイートポテトになるんだ。」
そうやって冗談半分に、ポテト臭を笑いに変えながら話してくださったことをおぼえています。

「うわ、ポテトや……」じゃなくて「あ、ポテトだ!!」と、
くじ引きに当たったような感じで、世の中が、そして私たちも、もう少しポテト臭をポジティブにとらえることができたらいいのになぁと、思うことがあります。

とはいえ、ポテト臭はやっぱり……そう思うこともあるかもしれません。小さなことでも何でも気になることがあれば、いつでもお問い合わせください。

参考にした論文

WORLD COFFEE RESEARCH. 2023. Potato taste defect
J.E McPherson. 2018. Invasive Stink Bugs and Related Species (Pentatomoidea)