
「マンデリン」の有名産地からもっと南方の、スマトラ島の南西部にあるのが、クリンチマウンテンです。
この地域の中央に鎮座するのがクリンチ山。標高3,805mの活火山、日本の富士山を思わせるような形をしています。
現地では「神の永住地」とも呼ばれる美しい山で、国立公園にも指定されています。クリンチ山を望む周辺地域も含めて、この地域一帯が「クリンチマウンテン」と呼ばれています。

毎年8月、インドネシアの独立記念日には、クリンチ山へ登り、頂上から国旗をつないでいくのがこの地域の風習。
毎年多くの若者が、クリンチ山へ登り、国旗をつなぐことで、国の繁栄を称えています。2024年は、つないだ国旗の長さが史上最長を記録したのだとか……。
そんなクリンチ山の麓、標高1,500mほどのところにあるのが、カユアロ地区とカユアロバラット地区、グニュントュジュ地区です。クリンチマウンテンエリアでは、この3つの地区を中心にコーヒー栽培が行われています。
朝晩は霧、日中は変わりやすい気候

クリンチマウンテンの気候は変わりやすく、早朝や夜はあたり一面が霧に覆われることも。私が滞在していた間も、朝目を覚ましてカーテンを開けるとどんよりした景色が広がり、夜になるとじめっとした霧に覆われる毎日でした。
日が昇るにつれて霧は晴れていきますが、麓のあたたかく湿った空気が今度はクリンチ山へ登り、その影響で雲ができやすくなります。そうした環境から、日中は、日が差したと思うと、すぐに雲がかかり、時には雨が降り、ころころと天候が変わるのがこの地域の気候の特徴です。晴れていても傘は必須です。
気候と栽培方法

コーヒーは適度な日陰を好む農作物。コーヒー栽培にとって大切なのがシェイド(日陰)の管理です。アラビカ種のコーヒーの木には、60〜70%の日陰がちょうどいいと言われています。
コーヒーの生産国の多くでは、コーヒーの木と木の間に、シェイドツリーを植えるのが一般的な方法ですが、実際にクリンチマウンテンで見たのは、じゃがいもやキャベツに、唐辛子などの畑の合間合間にコーヒーの木が植わっている様子。シェイドツリーを見かけることはあまりありませんでした。

「こんな気候だから、ここにはシェイドツリーはいらないと思うんだよね。」
滞在中実際に、霧や雲が多い天気を目の当たりにして、農家さんが言ったこの言葉に納得。この地域にはこの地域のコーヒー栽培のあり方があるのだと感じました。
クリンチマウンテンのスマトラ式

クリンチ山を背景に望む光景が印象的な現地のコーヒーの乾燥場。霧や雨の多いこの地域のコーヒー生産プロセスの主流も、マンデリンのコーヒーと同じスマトラ式です。
果皮・果肉、ミューシレージを取り除き、現地語で「ガバ」と呼ばれる、水分値が40%前後のパーチメントの状態にします。この状態で、加工を専門にするコレクターとよばれる業者や組合の加工場にもっていく農家さんが多いようです。
そしてガバの状態で脱殻。この時の生豆は色が白く、「ラブー」と呼ばれます。
ラブーの状態から乾燥を進めていき、水分値を15%ほどまでおとしたものを「アサラン」と言います。

乾燥がうまくいっているものは、青みがかった色合いをしています。スマトラ式のコーヒーの商品名に「〇〇ブルー」とつけられていることが多いのは、この生豆の色に由来しているのです。
これはきれいな青、これはなんか微妙……。生産者さんたちから、コーヒー豆の色が乾燥状態を見極めるカギになると教えていただきました。
クリンチマウンテンのスマトラ式は何がちがうの?

クリンチマウンテンに拠点をおくパートナー、アルコ生産者組合の代表スルヨノさんに、クリンチマウンテンのスマトラ式の特徴を聞いてみました。
クリンチマウンテン地域でスマトラ式のコーヒーが正式に導入されたのは2018年のこと。「Greenbean Blue Kerinci」という呼び名で、アルコ生産者組合によって広められましたのだそうです。(つい最近の出来事なんですね…)
この地域では、加工時にクリンチ山から流れる湧水を使用して洗浄します。この湧水にはミネラル成分がたくさん含まれていて、それがコーヒーの複雑な味わいとまろやかな口当たりにつながっているのだそうです。そして、生豆の色味にも関係が……。ミネラル成分の影響で、生豆の色がより濃い青色になる特徴がある、とスルヨノさんが教えてくださいました。

もう一つ大事なのが、「ラブー」の状態で乾燥させるときの厚みです。10㎝の厚みが理想的な厚みで、これが甘さの表れ方にもつながっていくのだそう。乾燥中は2時間ごとに攪拌(かくはん)させるのも大切な手仕事だと教わりました。
クリンチ山の恵みと、人々の手仕事が、コーヒーの味づくりにつながっているんですね。

インドネシア クリンチマウンテン
コピ ジェルク スマトラ式
明るいオレンジフレーバーとやさしいスマトラ感