フィリピンで僕らができること。

こんにちは。産地担当の安田です。
さて、前回の記事の続きです。

▷フィリピンで、やかんで沸かして飲むコーヒー

フィリピン北部では、小規模農家が自分たちでコーヒーを栽培し、加工するところまで、各世帯単位で行われています。
農家さんが自分で作ったコーヒーを、やかんで淹れてもらって、お話聞きながら飲むコーヒー。おいしかったなー。
誰がどんな想いで作ったコーヒーなのかを感じながらコーヒーを飲む、みたいな体験が、もっと手軽にできるようになるといいのに。

ふとそんなことを感じる一方で、

日本など、国際市場にそのコーヒーを届けていくこと考えるとどんな方法がいいのだろう。
また、そもそも農家さんにとっては、どんな売り方、紹介のされかたがいいんだろう。
なんてことを考えていました。

では僕らはここで、まず何からすべきだろう。

うーん。難しい。

で、いつもは終わるところですが、せっかくいい体験をさせてもらったので、
フィリピンで僕らができること。
もうちょっと粘って、考えてみようかと思います。

産地にいると、ネットが通じなくて仕事できない時間が多いので、考えたり書いたりする時間ができます。

■ 一農家あたりの生産量は多くない

例えば今年は、旦那さんが日本で働いている、アストリンさんのコーヒーを、そのストーリーと共に日本に届けたい!
と思ったとして。日本に輸出できる品質のコーヒー、何kg できそう?って聞いてみたとして。

例えば頑張って、コーヒーチェリーが300kgとか?生豆に換算すると50kgとか?焙煎豆だと40kgとか。
つくってもらって輸入したとしても、旦那さんのもとに届くまでに売り切れちゃいそう。
来年は頑張ったらもっと増やしてもらえるかな?というと、土地の広さは限られているし、旦那さんは後数年は日本にいるらしいし、そんなに突然生産量を増やすというわけにもいかなそう。

少量だと輸送コストも、管理コストもとても高くなってしまうし…
僕らが直接輸入して販売するとしても、あまり持続的なビジネスにはできそうにありません。

農家さんは、こんな感じの袋に収穫したチェリーをつめて運んできてくれます
20kg,30kg,とちょっとずつ収穫して、もってきてくれます。

じゃあ。
一軒じゃ足りないのなら、たくさんの農家さんのコーヒーをまとめて輸入するのはどうでしょう。

■ みんな、別に美味しいコーヒーつくるために生きてるわけじゃない

次にぶつかるのはきっと、
農家さんは、別に自分が世界一美味しいコーヒーをつくってやる!と思ってコーヒー栽培しているわけじゃない、という問題です。

そらそうでしょ。

って思う人が多いと思いますが。
コーヒーに関わるお仕事されてる人の中には、もしかしたらわかってくださる方もいるのでは、と思うのですが、世界はコーヒーを中心に回っていて、全ての人は至高の一杯の追求のために日々一喜一憂しているのだ、という錯覚に陥ることが、少なからずあります。

それはさておき。
目を覚まして現実をみると、
農家さんの中にももちろんコーヒーが大好きで、おいしいコーヒーをつくりたい!と日々試行錯誤を重ねているような方もいれば、とにかく生業として、出来るだけ手間暇かけずにお金に変えられたらいいや、と思っている方もいます。
それはどちらがいいとか悪いとかの話ではなく。

そんな中、みんなに自分自身で加工してもらったコーヒー豆を同じ値段で買いとって、混ぜちゃったとしたら?
頑張ってた人からすると、
「せっかく頑張って時間かけて選別もしたのに、手抜きでつくってるお隣さんと同じ値段なんて。。。私もサボっちゃお。」
ってなりますよね。そのまま対策をしなければ、品質はちょっとずつ低い方に揃って行くことになってしまいます。

では、まずは買取基準を明確にして、規格分けを行なっていくことが先決かもしれません。
それともやっぱり、まずは精製場もっている現地企業とパートナーを組んで、そこで徹底した品質管理されたコーヒーを届けるところからでしょうか。

■ 多様なプレイヤーが、多様な仮説をもって同時に取り組むこと。

考えはじめると山ほど取り組むべき課題が浮かんできますが、自分たちだけでは到底解決できそうにありません。

果肉除去機。量の安定、品質の向上には、機械への設備投資も必要。

フィリピンのコーヒー農家さんのことを考えて活動されている人たちは、同じ地域にもたくさんいらっしゃいます。
それぞれ取り組んでいる優先順位が違っているからこそ、販路が多様になり、農家さんにとって選択肢が広がる結果になっています。

例えばフィリピン政府も、この地域でコーヒー農家の自立を支援しようと取り組んでいます。
彼らの方針は、どうやら聞いたところ「六次産業化」政策みたいなイメージに近そうです。
実際に、コーヒー栽培が盛んな地域には1日1トンのチェリーを精製できる精製場を作り、さらに農家さんが自身で焙煎までできる設備まで完備しています。

素晴らしい設備ですが、実際には十分に機能していないようです。

一つの原因は、農家さんの多くが兼業農家で、高齢。つまりは人手不足であること。
彼らだけでは栽培、精製、焙煎、全ての品質管理、マーケティングまでやりきれません。
もう一つは、キャッシュフローの問題。
政府運営なので、コーヒーチェリーを買い取るための予算は確保されていないようです。農家さんは、収穫から商品化されて実際に売れるまでの時間、収入はゼロ。十分な貯蓄がない農家さんにとって、これはつらい。結局、即金ではらってくれるバイヤーに売ってしまうことがほとんど。

とはいえ無駄な設備か?というとそうではないと思います。
すでに技術が高くてある程度余裕のある農家さんは、自分の収穫の一部分でこの設備を使えばいいし、
収穫高がよい年や、生産量が増えてきて余剰豆がでてきはじめたとき、この設備を利用する、という選択肢があるととても助かるかもしれない。

他にも、
・ 生産者組合の組織化も、優先度の高い案件かもしれません。
・ いや、その前に一農家あたりの生産量の拡大が最優先か。だとすると栽培技術の普及から。特に、剪定がされてなさすぎる。まずはそこの指導に注力?
・ というか、スペシャルティコーヒーとか農家が作ったコーヒーの付加価値を伝えるとかそういうフェーズじゃなくて、まずは品質はともかくとにかく生産量を増やす、コモディティ市場を満たすところから?外資による大規模投資とプランテーションを誘致か。
・ 生産効率を考えると、コーヒーはそもそも北部で作るべきではなく、ミンダナオ島での栽培に集中した方がいいのかも。
・ 違うなー。この生産量で、輸出しようとするのが方針として間違っているわけで、国内市場の成熟が急務。急成長中のマニラの都会っ子たちにもっとコーヒーの品質を理解してもらうことが最初かも。
・ いや、それを実現するためには、まずコーヒーの輸入を制限するべき?現状の関税は低すぎてザルすぎる?

いやいや。

僕らはまず、どこから取り組んでいくのが良さそうでしょうか。

うーん。

難しい。

よくわからなくなってきたので、一旦考えるの、やめようと思います。

今この産地が直面している最重要課題が何かとか、手を付けるべき優先順位はどこからとか。
誰が、どんな目的をもって、どこ視点でみるかでいくらでも変わってくるのだと思います。

なので結局、いろんな人が多様な仮説をもって、同時多発的に実証しようとしている状態がよさそう。
重要なのは、各々が設定した課題に真剣に取り組みつつも、同時に他の人の仮説を否定せずに情報交換を続けること、ではないでしょうか。

僕たち「海ノ向こうコーヒー」も、ときに迷いながらですが、
いま見えてるところから、できうる範囲のことから淡々と。取り組んでいきたいと思います。