ナマステ。
産地担当の安田です。
年明けから、ネパールに行ってきました!
コーヒーベルトの北の端、コーヒー産地の中では一番新しい国の一つです。
ヒマラヤ山脈の麓、標高8000m級の山々が並び、富士山をhill(丘)に分類するこの国で、
新しくコーヒー栽培をはじめようとする農家さんを訪問してきました。
首都カトマンズや、トレッキングで有名なポカラなどの観光地には、最近はおしゃれなカフェが立ち並びますが、コーヒーづくりはまだまだ探り探りと言った様子です。
そんな彼らにとってコーヒーとは?
■ 若者が、農村部で暮らし続けるきっかけづくり。
発展著しいネパールでは、他の新興国同様、若者の流出が続きます。
農村部から都市部に移り住む人、海外に出稼ぎに出かける人。
もちろんある程度の教育機会や人脈をもって飛び込んで成功した人たちはいいと思うのですが、
仕事もみつからず、見つかっても生活費も高い中の低賃金で働かざるを得ず、過酷な労働に身体を壊してしまう、というような話もよく聞きます。
生まれ育ったコミュニティで、誇りをもって暮らし続けられるような、産業がつくれないか。
僕らは現地の社会企業、「IGC(Incentive Group of Companies)」と協力しコーヒーづくりに取り組もうとしています。
IGCはもともとは現地で観光業やIT事業を中心に活動してきた企業。
営利企業であると同時にNGOももっており、農村部での学校建設や震災復興活動などにも精力的に取り組んできました。
それだけではなく、持続可能なビジネスとして、農村部に新しい産業をつくり雇用機会も創出していくべく、コーヒーに興味を持ち始め、試行錯誤を繰り返しています。
僕たちは、所属する Global Shapers のつながりから彼らの活動を知り、以前から少しずつ技術サポートとして関わるようになりました。
産地との関わり方はそれぞれグラデーションがあり、バイヤーとして産地に関わることが多いですが、農地の選定や精製場の建設、デモファームの設置など、一から深く関わらせていただいています。
これまでいろんな産地を渡ってきて、ある程度の知識はもっているつもりでしたが、やはり場所によって課題は異なり、学ぶことだらけです。
■ 未利用の土地で、お茶のサブクロップとしてのコーヒーを。
はじめに訪問したのはイラムという、ネパールの東端、インドのダージリン地方と国境を接する地域です。
ダージリン同様お茶の産地で、一面に茶畑が広がります。
その一部の地域のコミュニティフォレストを活用して、コーヒー栽培を計画しています。
お茶の収穫はほぼ通年で続きますが、乾季の12-3月は農閑期。
コーヒーは逆にこの時期が収穫期なので、彼らにとっては大きな収入源になりえます。
コミュニティフォレストでは、木を切ってはいけない決まりになっているので、日射量を必要とするお茶の栽培は難しく、土地をうまく活用できないでいました。その点コーヒーにとってはちょうどいいシェードになっているこの森の中に、コーヒーを植えようという計画です。
今年は約15haの土地でコーヒーの苗を植えてみようという提案をしてきました。
種とりから剪定・施肥・収穫・精製まで一連の流れを紹介しましたが、僕のこれまでの経験上、これほどスムーズに受け入れられたコミュニティはありません。
それもそのハズ、伝統的にお茶をつくってきた地域なので、コーヒーづくりのイメージが共有しやすいのです。
植えてから収穫まで3-4年という投資回収までの長さと、ちゃんとケアすれば子供や孫の代まで継続した収入を得られる可能性があるというあたりのバランス感覚。
定期的な剪定の重要性や、収穫のタイミングによりグレードが異なるというあたりの品質基準に関しても、すんなりと理解してくれて、詳細な質問が飛び交いました。
標高も1600mあたりで朝晩寒冷で昼間は温暖。腐葉土により土も十分肥沃。
大きな課題は、カトマンズから600km以上離れた遠隔地であるための諸々の輸送コストですが、一つ一つ、一緒に解決していきたいと思います。
■ コーヒーを育てるということは、何かを育てないということ
一方で、次に訪れたカブレ地域では、もう少し慎重な意見が飛び交いました。
カトマンズから、車で4時間東に走ったところにある地域です。
とても急峻な斜面で、同じ村の中で標高さ1000m以上もあります。
イラムと比較すると産業も少なく、農閑期には都市部への出稼ぎや近くのレンガ工場に働きに出ていく人も多いです。
ワークショップには50人近くの方が参加してくださり、コーヒーへの期待は感じとれました。
一方で、コミュニティフォレストだけでなく、自分の土地で育てることを検討してくれているので、
育てたことのない作物を3-4年間も待つことへの不安の声が多く聞かれました。
例えば木を切ってトウモロコシを植えればある程度の収入や食料は確保できるにも関わらず、コーヒーづくりにあてるのですから、不安は当然です。
まず最初は1人数百本~1千本程度にとどめて栽培してもらい、
僕たちとしても農家さんにみてもらいやすい場所にデモファームをつくって様々な実験を行い、その地域でのコーヒー栽培で気をつけるべき点など試行錯誤の様子もみてもらえるように、計画しています。
こちらのデモファーム自体はすでに3年目。
大きな問題は、昔の土砂崩れの影響などで一部土の中に石が多すぎる地域があることと、土壌が少しアルカリよりであるらしいこと。
その他いいと思っていたシェードツリーの樹液がコーヒーの葉っぱによくない影響を与えてしまっていたり、
丁寧に除草をしすぎて虫食いがひどくなったり、どうやらモモンガにコーヒーチェリーを食べられているらしいとわかったり。
原因の仮説検証とトライアルを繰り返して、対策をすべきことと、ある程度は放っておいても問題ないことの見分けをしっかりつけて、
地域ごとの理想的な栽培方法を模索していきたいと考えています。
■ 国の基準自体にも、提案し続ける。
ネパールの国全体としても、コーヒーは試行錯誤中です。
今年初めてネパール国内でQグレーダーの試験が行われるなど、少しずつ機運は高まってこようとしています。
中国、インドという大国にはさまれた山がちの内陸国で、規模での勝負は到底できないからこそ、高品質なコーヒーにこだわっていこうとされています。
農家からの買取価格なども相当な高値で管理されていて、農家さんにとってはいい面でもありますが、品質と価格がアンマッチな状況です。当然生豆での価格も高くなり、国内マーケットにおいても、関税がかかっても他国から輸入する方がお手頃、というような状況にもなってしまっています。
こうした状況の中では、まずはある程度体力のある企業レベルで、自社で農園や精製場も抱えて独自の品質管理方法で、価格に見合うコーヒーをつくり”ウソをホントに”していくことも一つの方法なのかなと思います。
そこから、少しずつ全体のルール自体がサステナブルなものになっていくような提案も、随時行っていけたらと考えています。
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なんだか大きな話もしてしまいましたが。
一からつくる、というステージに関われていること、嬉しく思います。
でも4年後かー…つくづくコーヒーづくりって時間がかかります。
自分自身はどこまでいってもよそ者で。
現地にしっかり根ざして活動されている方たちの少しでも役に立ちたい。
焦らず、じっくり取り組んでいかないと。